後継争い2
ぽんこつはおてがみをかいた!
こうかはばつぐんだ!
いつのまにか使用人も護衛も距離を取っており、大分離れた場所にいた。
たぶん、後半の会話は聞かれていない? 同情の視線が突き刺さるキシュタリアは、ひらひらと手を振って去っていった。呆然と見送るわたくし。
わたくし、ほんとダメ令嬢……元気づけることも中途半端。役に立とうとして空回っていますわ。ハムスターの滑車の玩具のようにカラカラと。
キシュタリアは甘えてなんていなかった。わたくしに甘えてくれただけなのだと思う。わたくしが、そう望んだからそういうふうにしてくれている。
わたくしは自分が思っている以上に子供。そして、キシュタリアは大人です。
「お嬢様?」
「ぴぁ!?」
物思いにふけりすぎて、すぐ傍に居たアンナに気づきませんでした。い、いけない……令嬢らしからぬ声が出てしまいました。
心配そうにわたくしの顔を覗き込むアンナ。ええーと……? びっくりしすぎて色々すっぽ抜けてしまいましたわ。
「大丈夫ですか? かなり放心していらっしゃいましたが………」
「手紙、そうですわ! お手紙です!」
「お嬢様?」
「ラティッチェと、商会の関係者に手紙を出します。用意してくれますか、アンナ?」
急なわたくしの発言。だがほんの少し微笑を浮かべたアンナは「仰せのままに」と恭しく頭を下げる。
たしか、ローズブランドの運営はジュリアスたちが実質的に動かしていますが、名義はわたくしだったはずです。知っている出入りの商人たちにも、手紙を出しましょう。
余計なことかもしれないし、大した力にならないかもしれない。
でも、何もできないわけではないはず。
認めたあと、丁度やってきたクリフトフ伯父様に「くれぐれもお願いします」と渡したら、何故か物凄く張り切って請け負ってくれました。
キシュタリアと仲が悪いけど、わたくしにはいい顔したいらしい。ですが、いつも何かしたいことはないかとか、手伝えることは、欲しいものはないかと無駄にうろうろされていましたので追っ払う口実に丁度良かったです。髭の熊さんも良くうろうろしていますわ……距離は弁えているようですが。
……うう、好意を利用しているようで心苦しいですわ。なんというか、キシュタリアを愚弄したのは許せないのですが、あんなにも必死に機嫌を取ろうとしている姿には同情してしまったのでしょうか。
ですがクリフトフ伯父様はわたくしにデロ甘です。やってくれるはずですわ! 高位貴族ですし、顔も広いはず! そして、いざとなったら熊公爵の盾になってもらうのです! 時間稼ぎでもいいのです!
そのためにアンナからも必殺技を伝授いただきました……効くのかしら?
「あ、あの、お願いいたしますわ……………ク、クリヒュ伯父たま!」
滅茶苦茶噛んだ。
恥ずかしい。羞恥で死ねます。ごめんなさい、キシュタリア。ポンコツヒキニートの姉は最後まで役立たずでした………
ですが、折角のここぞ! というのに失態したのにもかかわらず顔面がモザイクかかる勢いで相好を崩したクリフ伯父様。
「も、勿論だよ! アルベルティーナ! 伯父たまにまかせなさい!」
ええい、お黙り遊ばせ! 蒸し返さないでくださいまし!
内心悔しさを感じつつ、きっと睨むがますます嬉しそうなクリフトフ髭伯爵。
スキップしそうな勢いで有頂天な髭オジサマは、ご機嫌極まったご様子で出て行きました。
……ちゃんとやってくださいますよね?
失敗してしまったとアンナにしょんぼりと伝えたら、なぜかベラとアンナは間違っていないと太鼓判を押してきた。いえ、滅茶苦茶しくじりました。
「流石です、お嬢様」
「クリフ坊ちゃまが暴走しすぎないよう、こちらで押さえますのでご安心を」
数日後、その効果が覿面に現れることなどアルベルティーナはしりもしない。
大貴族ラティッチェの姫君、そしてローズブランドの幻のトップ。ラティッチェの至宝と呼ばれた姫君直筆の手紙は絶大な効力を持った。
しかも、持ってきたのはフォルトゥナ伯爵。次期フォルトゥナ公爵である、身元の安全性が抜群に高い生粋貴族の一人が持ってきたのだ。アルベルティーナの後見人候補と名高いフォルトゥナ家所縁の人物だ。
流麗で美しい文字で続かれた手紙は、くれぐれもキシュタリアやラティーヌをよろしく頼むという、とても丁寧な願い出だった。
貴族というのは無茶難題吹っかけた挙句やっぱりやめたと踏み倒し、思った通りじゃないとゴネるのも少なくない。
豪商だろうが一流職人だろうが、たかが平民と侮るのも多くいる。
自分たちを労わりつつ、自らが出向けないことを謝罪しながらも頼み込まれれば、悪い気がしない。連日、我々はラティッチェ公爵家の正統な後継者だとデカい顔をしていた馬鹿どもなどに悩まされていた商会などは特にそうだ。
最も力ある人物から、そんな奴らは知らないから叩き出していいと許可が出たのだ。
アルベルティーナ・フォン・ラティッチェは顔も見たこともないが、使用人や雇っている職人や店員の職場の待遇を非常に気に留めてくれている人だ。
ローズブランドや、彼女の手掛けた工房はずば抜けて待遇がいい。求められるものは高いが、給金や休日は勿論福利厚生などもしっかりしている。結婚し、子供ができたと暇乞いをしても、子育てにひと段落がついたら再雇用もしてくれる。怪我をして退職しても、働けなくなったらサヨナラではなく退職金という支度金や当座の生活には困らない金子をくれるのだ。
それに、働く人間に一時金といったシステムもありアルベルティーナの関わる事業に飛びつく人間は多い。だが、そのブランド力の高さと好待遇とくれば狭き門だ。
この辺はアルベルティーナの前世の記憶の福利厚生に基づいている。こちらでは画期的でも、アルベルティーナの中では普通のこと。傍に居るジュリアスが余りに休んでいないのでぴーぴー訴えた結果である。だが、ジュリアスは無駄な休日を貰うより自称ポンコツに構っているほうがよほど有意義で楽しいので余り生かせていない。だが、アルベルティーナの求める勤務形態を読み取ったジュリアスは、いわれる前に自分の手に及ぶ範囲は変えた。彼が有能たる所以だ。
ちなみにジュリアスの一時金は、すべてアルベルティーナの渋るアイディアの商品化で消費されている。いつの間にか丸め込み、巧みにすり替えているのだ。アルベルティーナは扱き使って申し訳ないといっているが、概ねジュリアスの狙い通りだったりする。
エリート従僕がアルベルティーナの関わる商品開発にとても積極的だ。むしろ他人にゆだねるのがとても嫌がっているのを、当の本人だけが知らない。
「なるほど。ここ最近、妙に商会からの被害報告や問い合わせが減ったと思ったらそういうことですか」
ラティッチェの血筋、という点では最も正当性のある人物がキシュタリアを全面的に擁護している。産まれた血筋のみがよりどころで大きな顔をしている連中は、さらに正当性のある人物から認められていないとお達しがあればどうしようもない。
しかも相手は、商会、ラティッチェ公爵家のヒエラルキーで間違いなくトップに名を連ねている。ほとんどの人間からみれば、アルベルティーナの身分は殿上人といっていい。そんな相手から、直々の要請だ。
「しかも使者にクリフトフ・フォン・フォルトゥナ伯爵。
アルベルティーナ様個人の薔薇の封蝋付きの正式な書状。代筆ではなく直筆でサイン入り。
ここまでくれば、分家がどう騒ごうが何もできませんね。これ以上、下手に主張しようものなら墓穴を掘ることになりましょう。アルベルティーナ様に反意ありとみなされ、信用をもって言伝役をしたフォルトゥナ公爵家からも睨まれる羽目になる――さて、あのお嬢様はどのあたりまで計算に入れたのやら」
「考えてないんじゃない? 少しでも力になったら、程度にしか考えてないよ。
自分の立場の重大性は知っていても、一度も使ったことがない。どれだけの影響力かを知らないから、職人たちや商人たちに直筆の書状なんてだしちゃうんだよ」
貴族と平民に間にあるものは大きい。
わざわざ書面という形になる形で、しかも直筆でそんなものを出すという発想自体少ないだろう。
この手紙は他にも多大な影響を与えた。
ラティーヌも最初、ラティッチェ公爵邸にやってきたクリフトフに怪訝な顔をしていたが、アルベルティーナから預かっているという手紙を貰うなり膝を崩れさせた。
何故この男が持ってきたと思ってもアルベルティーナの手による筆跡を間違えるわけがない。
クリフトフはさらにセバスやジュリアスといったヴァユの離宮に勤めていない使用人たちに、手紙を渡した。ラティーヌやセバスに代表して渡すのではなく、本人に。
手紙を読んで感極まって泣きだしたのは一人二人という数ではない。
使用人全員というわけではなく、ある程度の地位にある人間に代表しての形だったが、連日の不作法者たちの対応に追われていた身としてはそのありがたみは染みただろう。
ましてや、長年ラティッチェで大事に囲われて守られてきたアルベルティーナを知る人間たちにとっては心配も絶えなかった。
ジュリアスは使用人でも数少ない、個人宛で手紙を貰った一人である。
すました顔をしているが、封筒をペーパーナイフで細心の注意を払いながらも、すぐさま開けようとした。そして随分丁寧に切っているところからして嬉しいのだろう。
「はあ、大丈夫だっていったんだけどな。信用無いのかな」
「信用というより、これ以上無くしてたまるかというのもあるのでは?」
ジュリアスの言葉にハッとしたキシュタリア。
苦々しい顔をしたものの、納得したようだ。最愛の父を失ったうえ、大事な義弟や義母まで見ず知らずの分家貴族に食いつぶされるのは恐怖でしかなかったのだろう。
ラティッチェを愛するアルベルティーナの家族への愛情は人一倍だ。
青年といっていいほど成長し、この年齢になってもアルベルティーナのキシュタリアへの溺愛ぶりは、やはり変わらない。あの時もキシュタリア以外のラティッチェは任せられないと言っていた。
なまじ入ってくる情報の少ないアルベルティーナは、余計こじれたのかもしれない。
「じゃあ、有難くアルベルの好意を受け取って、次に進もうか」
「そうなさってください。まだまだ忙しいのですから」
不敵な笑みを浮かべる主従。
アルベルティーナのために生きて、アルベルティーナのために死ね。
それが、ラティッチェ公爵家にくるときにいわれた言葉。言われたばかりの時は、絶望的な呪いのような言葉だった。しかし、それが今では当然のことと受け入れている。
私情があるのは否定できないが、誇らしくすらある。
アルベルティーナの敵は徹底的に排除する――それはラティッチェ家にいるものの絶対的な使命ともいえた。
そのアルベルティーナが、キシュタリアだけを後継者として望んでいる。それだけで力が湧くし、俄然やる気が出た。
「さぁ、反撃と行きますか」
血は繋がらなくとも、骨の髄まで魔王の薫陶を受け継いだ青年が凄絶なまでの艶笑を浮かべた。
読んでいただきありがとうございました。
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