フジロックも中止 フェスなき夏、音楽ビジネスの修正不可避

新型コロナ
2020/5/22 0:12

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、日本のロックフェスティバルの先駆け、フジロックフェスティバル(8月21~23日、新潟県湯沢町)が●日、中止を発表した。今年は24回目の開催予定だったが、多くの参加者が県外から訪れるため感染症対策が困難なだけでなく、海外からの出演者の入国も難しい状況で、実施は不可能と判断した。フジロックは1997年に山梨県の富士天神山スキー場で開かれた第1回が悪天候のため、2日目が中止になったことはあったが、完全な中止は初めてだ。

毎年多くの観客を集めてきたフジロックフェスティバル(C)宇宙大使☆スター

ロック・イン・ジャパン・フェスティバル(8月8~10日、茨城県ひたちなか市)や、ライジング・サン・ロック・フェスティバル(8月14、15日、北海道石狩市)といった大型イベントも既に中止を発表しており、夏の風物詩となった大型ロックフェスが軒並みなくなる異例の年になる。

フジロックは海外の大物アーティストが多数出演し、2019年は13万人の観客を動員した。ロック・イン・ジャパンは邦楽の人気者がそろい、19年は33万人を動員した国内最大級のフェスだ。緊急事態宣言は解除されつつあるが、参加者が密集する音楽イベントで十分な感染症対策を整えるのは現時点では難しいとの判断だ。

縮むCD市場と対照的に、2000年代に入って音楽フェス市場は右肩上がりで成長。アーティストやレコード会社なども夏フェスを軸にして年間スケジュールを組み立てており、音楽ビジネスのけん引役を果たしてきた。

さらに地域振興という面でも大きな貢献を果たしてきた。経済効果は主催者のチケット売り上げだけにとどまらないからだ。

音楽ライブの主催者団体であるコンサートプロモーターズ協会(東京・渋谷)の中西健夫会長は「大きなフェスであれば100以上の会社が関わる。地方フェスで30~50億円、大きいフェスになると100億円以上の経済効果がある」と指摘。遠隔地から訪れる観客の飲食や宿泊、観光、物販といった売り上げが地域経済を潤す波及効果が大きいと説明する。それだけに「地方創生の一つだった。2000年代に入りフェス文化が根付いて、まさに成熟しようとしてきた時期だけに喪失感が大きい」と残念がる。

音楽評論家で、自らもロックフェス「VIVA LA ROCK」のプロデューサーを務める鹿野淳氏は「フェスがない年になれば、フジロックが始まった1997年以来初めてのこと。音楽ファン以外でも楽しめるフェスは、音楽マーケットへの入り口として貢献してきた。それを失うのは大きな痛手だ」という。

若者を中心とした音楽シーン全体にも大きな影響が及びそうだ。鹿野氏は「手を振ったり大声で叫んだり、熱く自由に楽しむというフェスの醍醐味が当分の間はなくなるかもしれない」と懸念。「フェスやライブの楽しみ方が変わることで、ロックやポップ音楽の作り方まで抜本的に変わる」と影響は創作面まで及ぶ可能性があると指摘する。

「2010年代は、フェスに対応するためのノリが良く大勢で盛り上がれる音楽が流行した。2020年代は、座ったまま非日常感を味わえる音楽や、アーティストと自分が1対1でつながれるような音楽がブームになる可能性がある」と鹿野氏。

新型コロナウイルスのワクチンや治療薬などが確立されなければ、21年以降の開催もまだ見通せない。鹿野氏は「1年後にこれまでと同じものができるとは思っていない。今までのフェスは、大勢の人の一体感を味わうものだった。フェスの役割がそもそも何なのか考えなくてはならない」と話す。

(北村光)

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