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2020年5月21日(木)

シンガポール コロナ禍 過酷環境浮き彫り

社会的弱者に感染集中

外国人労働者の劣悪宿舎 温床に

 【ハノイ=井上歩】新型コロナウイルス対策の優等生だといわれたシンガポールで感染者が急増し、3万人を超える勢いです。感染は最も立場の弱い人々である外国人出稼ぎ労働者に集中。無視されてきた人々の過酷な環境がコロナ禍で浮き彫りになり、社会のあり方を問う声もあがっています。

 同国が事実上の封鎖措置を導入したのは4月7日。感染者が千人台の段階で職場や店舗を閉鎖し、市中感染を抑え込みましたが、外国人労働者の宿舎で爆発的に拡大しました。いま同国感染者数(19日、2万8794人)の9割以上を占めます。

「時限爆弾」

 「宿舎は、時限爆弾のようなものだった」「シンガポールは、外国人労働者の待遇についてこれを機に目を覚ますべきだ」。同国の著名な外交官トミー・コー元国連大使は4月、フェイスブックに怒りをこめて投稿。話題になりました。

 シンガポールの労働力約370万人のうち、低技能職向けの労働許可証を得ている外国人労働者が約100万人にのぼり、建設、製造、家事などの分野を支えています。うちインドやバングラデシュからの建設労働者を中心に、20万人以上が各地の専用宿舎に滞在。感染拡大をきっかけにして、その劣悪な居住環境が明るみに出ました。

 英字紙ストレーツ・タイムズは、「1部屋に12のベッドが置かれ」、害虫がはびこるという宿舎の実態を報道。ロイター通信は「過密で不衛生だった宿舎が感染の温床となるのは不思議ではない」「ツケがまわってきたのだ」という労働者の声を伝え、給料も1日20シンガポールドル(約1500円)にすぎないと報じました。

 この問題を研究してきた豪ラ・トローブ大学のサリー・イヤー氏は、「恒常的な搾取、借金の束縛、衝撃的な(居住)状態。…出稼ぎ労働者に対するネグレクト(放置型の虐待)は制度化されている」と指摘しています(学術ジャーナルサイト「ザ・カンバセーション」)。外国人労働者は、今回の活動停止に伴う政府の支援策でも賃金補償や現金給付の対象に含まれていません。

根本的問題

 政府は感染した外国人労働者を展覧会場に設けた施設やクルーズ船に隔離。収束後の待遇改善も表明していますが、国内ではより根本的な問題に目が向けられ始めています。

 「トゥデイ」紙が伝えた同国識者によるバーチャル・シンポジウムでは、シンガポール社会が「低コストの短期外国人労働者に依存」し、政府も雇い主まかせで労働者の福祉に責任を果たしてこなかったなどを問題視。「すべてお金で成り立つ社会になっていた。…本当に必要なお金はいくらなのかを真剣に考え直すべきだ」との意見が出されました。