悪夢の成人式 真実を完全再現
今年もおよそ1週間後に迫った成人の日。
艶やかな振袖姿の新成人は風物詩。
しかし…今から2年前、そんな人生の晴れの日が悲劇の日になった。
2018年1月8日。
振袖のレンタルなどを行う神奈川県横浜市の業者が今日になって連絡が取れなくなった。
これにより新成人が着付けできないトラブルが発生。
その業者の名は…「はれのひ」。
成人式当日になって、その事実が発覚した。
当たり前に着るはずだった振袖が…ない。前代未聞の大騒動。
一体なぜ、新成人たちは被害に遭ってしまったのか?
その成人式の10か月前。
都内の専門学校に通う19歳の女性はこの日、振袖を着ての前撮り記念撮影。
この振袖を選んだのはさらに半年前の2016年9月のことだった。
高校を卒業して以来、自宅に振袖の営業電話が頻繁にかかって来るようになった。
どこから番号を手に入れたのか分からないが、いくつもの業者からかかってきた。
一生に一度の晴れ舞台。振袖を着て参加する新成人は多い。
そして、彼女が選んだ業者は、横浜の本店をはじめ、八王子、つくば、福岡など全国に店舗があった「はれのひ」。
どの店も繁華街の中心部にあり、契約者には髪飾りや草履、バッグなどがプレゼントされ事前の記念撮影や当日の着付け、ヘアメイクも無料になるなど充実したサービスが人気の店だった。
彼女は、「はれのひ八王子店」へ行った。
店員はすべて女性。感じも良かったのでこの店で振袖をレンタルすることに。
レンタル料金、22万2048円…それを1週間以内に振り込む。
式の当日は、この店でヘアメイクと着付けをしてもらえるとのことだった。
そして成人式の10か月前に前撮りという事前の記念撮影をしていたのだ。
娘の晴れ姿をお父さんにも見せたかったと言う母親。
実は、父親は数か月前に他界していた。
彼女は晴れ着姿を見せることができなかったという思いはあったが…地元の友人と久しぶりに会えるのが楽しみだった。
ところが…彼女が契約した「はれのひ」は新成人の思いを裏切る。
人気店が抱える「闇の部分」とは
設立は2011年。
呉服メーカーで働いていた篠崎洋一郎が独立して立ち上げた会社。
店舗はとても華やかで、当初は売り上げも伸びていたが、退職する社員が後を絶たなかった。その社員が口をそろえてつらかったと語るのが…営業電話。
この営業が店の売り上げを支えていた。
そして、そこには過酷なノルマが…最低でも1日300件電話をかけなければならなかった。
さらに断られても2日後にはまたかけ直さなければならないという決まりも。
社員たちは体も心も疲れ、次々に辞めていった。
一方、篠崎は横浜を皮切りに、次々に店舗を拡大。
目標は国内100店舗。海外進出まで考えていたという。
店舗を増やせば増収・増益になると思っていたが…大きな間違いだった。
やがて赤字がかさむようになっていく。
「はれのひ」が出店していた場所はいずれも家賃が高かった上、顧客獲得のため、草履やバックを無償でプレゼントするなど過剰なサービスで経費が膨れ上がっていた。
こんな状況にもかかわらず…年間4500万とも言われる高額な役員報酬を手にしていた篠崎はキャバクラで高額時計を自慢する贅沢ざんまいの生活。
一方で経営は悪化するばかり。
何とか事業を続けるために銀行に助けを求めようとしたが、もはや融資を受けられる状態ではなかった。
そして篠崎は一線を超えてしまう…決算書の改ざんを指示したのだ。
こうして合計6500万円の融資を受けた。
しかし、その金もすぐになくなり…事件が起こる4か月前の2017年9月。
社員の給料が支払われなくなった。
それに対して篠崎はM&Aを進めているからあと2週間待ってほしいと社員に説明。
しかし、いつまで経っても給料が振り込まれることはなく、最も多いときで49人いた社員は最終的には10人ほどに。
それでも残った社員の思いは、成人式を心待ちにしている女の子たちの笑顔を裏切りたくないというものだった。
給料も出ない社員たちの奮闘
横浜・八王子などの店舗だけでなく福岡店でも社員はどんどん減っていたが、成人式の準備を必死に進めていた。
給料が出なくなってからは、来年以降が不安になり、新規の電話営業をやめていた。
なんとか次の成人式だけは…その思いしかなかった。
だが、本社が支払いをしていないため振袖が届かない。
しかしそれを篠崎に訴えたところで「交渉しているから待て」の一点張り。
社員たちは本社を通さず、各店舗同士で連携をして新成人のために業者と交渉を始めた。
足りないものが山ほどあった。
その度に業者と交渉し、福岡店では自腹を切った。
自分はもう何か月も給料が出ていないのに。
そして、成人式まで1か月となった2017年12月。
仕立て業者の善意で全店舗の不足分70着を送ってもらえることに。
もう3か月も給料は出ていない。それでも無事当日を迎えられることが嬉しかった。
しかしその頃、横浜本社では、またも篠崎が信じられない行動を取る。
横浜本店の店長が成人式までは頑張るがその後は退職をすると伝えたところ、次のような信じられない言葉が。
篠崎「何言ってるの?成人式とそのあとはセットだから。君が辞めるなら成人式もしないよ。」
辞めるのを思いとどまらせようとしたのかもしれない言葉だったが、これによって社員の不信感はピークになり、横浜本店の社員は…ゼロに。
そんな状態で迎えた2018年1月5日。
成人式の3日前、福岡店に恐ろしいメールが届いた。
送り主は当日お願いしていた美容室。
「今後一切のお取引を解消させていただきます」とあった。
一体、何がどうなっているのか?すぐに本社の幹部に確認すると…なんと美容室に支払いができず、交渉が決裂したという。
それでも食い下がったが…返ってくるのはこうなったのは営業成績の悪い社員たちのせいだという責任逃れの返答のみ。
福岡店では123人の着付けを行う予定。
ヘアメイクは、少なくとも20人は必要…それが3日前にゼロに。
福岡店の店長はすがるような思いで地元の美容室に連絡した。
3日前に123人のヘアメイク、そんな急な話など普通は受け入れてもらえるはずはない。
さらにいま払える金もない。それを言えば協力してくれるかどうか…。
しかし、美容室のオーナーは察してくれた。
全て分かった上で協力してくれたのだ。
そして成人式当日はパニックに
しかしトラブルは続く…本社にいる幹部からだった。
なんと、今度は当日お願いしていた着付け業者を全てストップしたという知らせだった。
福岡店はすべて揃っているのに…必死に訴えたが、本社は全店舗の営業停止を決定していて、これ以上の支出は出来ないとのことだった。
福岡店の店長は悔しくて涙があふれた。
123人もの着付けとなると、プロがいなければ不可能。
土下座してでもお願いするしかなかった。
福岡の着付け業者に涙ながらに連絡すると…業者はこう言った。
着付け業者「心配しなくていいわよ。ちゃんと行くから。お金の心配はしなくていいから」
福岡店の店長の涙は悔しさから感謝の涙に変わった。
成人式の前日。
10か月前に前撮り撮影を行ったあの女性は、明日の着付けの時間を確認するために「はれのひ八王子店」に電話をしたが繋がらなかった。
この時、SNS上では、「はれのひ」の異変が騒がれ始めていた。
その理由は「はれのひ つくば店」での出来事だった。
実は、つくば市では1日早い7日に成人式を開催。
つくば店では、わずかに残った社員たちが独自に成人式の着付けを行ったが、時間に間に合わずクレームの書き込みがアップされていた。
そして、それを見た他の店舗の契約者たちが不安の声をあげていたのだ。
しかし、彼女はそれを見ることなく成人式当日を迎えてしまった。
早朝、4時。2人は着付け会場である「はれのひ八王子店」へ。
そして、とんでもない光景を目の当たりにする!
なんと、店内はもぬけの殻。
実は前日まで社員は店内で必死に作業をしていたが着付け業者を見つけることができなかったという。
同じ頃、横浜店が着付け会場としていたホテルもパニックに。
こうして被害にあった新成人は300人以上。
振袖を着られずスーツで参加した人、参加自体をやめた人も多かった。
一方、独自に動いていた福岡店は無事、新成人を迎え入れていた。
美容室のオーナー、そして着付け業者が身銭を切って全て手配してくれた。
そして…なんとか123人、全員の着付けをやり遂げた。
元社員が今も抱える罪悪感
しかし、福岡店長にはまだやるべきことが。
それは報道を見て店に来た来年以降の契約者たちへの対応。
浴びせられる罵声に、ただただ謝るしかなかった。
そして、せめてもの対応として購入者には、店に保管されていた仕立て前の仮縫いの振袖を渡し、他の人には、仕立て済みの振袖を代替品として渡した。
この騒動は日本中で大きく報じられた。
しかし張本人の社長、篠崎は雲隠れしていた。
全ての責任を放り投げ、雲隠れしていた男が姿を現したのは、成人式からなんと18日後のこと。
最初から成人式の着付けなどをやらないつもりで契約者から金を騙し取ったのではないか、との疑いもかけられたが、それを検察が立件することは出来なかった。
法廷で問われた罪は銀行に対して偽造した決算書を提出し、融資を得た詐欺罪のみ。
篠崎には懲役2年6か月の実刑判決が下された。
あれから2年、世間では忘れられつつあるが
当時の福岡店長をはじめ、元社員たちは未だに罪悪感を持っているという。
一生に一度の晴れの日を台無しにされた新成人。
そして各店舗で必死に対応したスタッフたち。
多くの人を傷つけた篠崎受刑者の罪は重い。