「3週間ほど前に知り合いの新聞記者さんから、『高田川部屋の新型コロナ感染で、まだICUで治療を受けている力士がいるのですが、それが勝武士さんなのだそうですよ』と、教えてもらって驚きました。そのときは『若いからきっと回復するだろう』と、思っていたのですが……」
沈痛な面持ちで語るのは、山梨県・竜王中学校柔道部の顧問を務めていた佐々木秀人さん(64)。5月13日に新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全で亡くなった力士・勝武士さん(享年28)の恩師でもある。
勝武士さんはまだ28歳、日本国内の犠牲者としては最年少であり、その早すぎる死は日本中に衝撃を与えた。スポーツ紙記者によれば、
「勝武士さんは4月4日ごろに38度台の高熱を発しましたが、なかなか受け入れ先が見つからず、ようやく入院できたのは4日後のことでした。10日にPCR検査で陽性が判明、さらに容体が悪化した19日からICUで治療を受けることになったのです。1カ月以上にもわたる闘病となりました」
前出の恩師・佐々木さんが勝武士さんに最後に会ったのは、今年2月のことだったという。
「1年に1回、勝武士が付け人を務めていた兄弟子の竜電(29)の激励会が地元で開催されるのです。竜電は、中学校の柔道部で勝武士の1年先輩でもありました。勝武士の身長は165cmほど。中学時代も背は低いほうで、私も『ほかの人間の2倍も3倍も稽古しなくちゃダメだぞ』と、言っていました。柔道でも稽古熱心でしたが、本人も小学校時代から力士を目指していたので、志望どおりに角界に入ったのです。相撲部屋に入ったときも、『高校や大学に進学したつもりで、しっかり社会勉強します』と、言っていました。今年も激励会の後に、勝武士、竜電、そして私と3人で食事をしたのですが、そのときにも『もっと上を目指したい』と、語っていたのに……。それが昨日の13日早朝に竜電から『勝武士が亡くなりました』と、電話があり、目の前が真っ暗になりました」
勝武士さんは、“力士の職業病”ともいわれる糖尿病を患っていた。新型コロナ感染症と疾患の関係について横浜市にある「福田医院」の福田伴男院長は次のように語る。
「疾患のある方、特に糖尿病や高血圧、心臓疾患の方は、新型コロナ感染症で重篤化するリスクが高いのです。糖尿病患者は血糖値を制御できず、ふだんから全身の血管がダメージを受けている状態にありますから、あらゆる感染症が悪化しやすくなります。さらに新型コロナは血管の内壁を傷つけるという報告もありますから、脳や心臓などの臓器が損傷する可能性も高まります。勝武士さんが発熱しても入院できなかったという4月上旬は、保健所の電話もつながりづらく、小さな病院は閉めてしまっていた時期です。コロナ禍の当初は4日は様子を見るようにということも言われていましたが、医療機関も混乱しているなかで、症状が悪化してしまったのでしょう」
実は勝武士さんは、角界へと背中を押してくれた実母(享年55)との別れを経験したばかりだった。山梨県に住む勝武士さんの祖母(81)は、
「あの子は相撲部屋に入るときに母親、つまり私の娘と相談していました。私と娘で、何度か国技館に見に行ったこともあるんです。元気でやっている姿に安心したものです。だから相撲に人生をかけたことには、本人も後悔はしていないと思うんです。でも、まだたった28歳ですからね。結婚もまだしていなかったのに、ここに帰ってきたときには骨壺に入っていて……、それは残念ですよ」
勝武士さんの遺骨が実家に戻ってきたのは、亡くなった13日のことだったという。
「相撲部屋から孫が入院したと連絡があったのは、まだ新型コロナウイルスとわかる前のことでした。亡くなる前は、相当呼吸も苦しそうだったみたいです。あの子の母親も、まだ50代だったのに、今年に入ってから病気で亡くなっているんです。娘を追うようにして、孫も亡くなってしまって……。何とか気を強く持って生きていかなくては、と思っているのですが」
目を閉じる祖母のまぶたの裏に浮かんでいたのは、在りし日の孫・勝武士さんの雄姿だったのだろうか。
「女性自身」2020年6月2日号 掲載