2020年5月20日
地域医療ご担当の先生方へ
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
病院長 國場幸均
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 新型コロナウイルス感染症の対応に関する中間報告
平素より当院の診療にご協力いただき厚く御礼申し上げます。標記の件について、次のとおりご報告いたします。また、関係者の皆さまへのご説明が遅れましたことを深くお詫び申し上げます。
記
1. 院内における発生状況
1) これまでの発表(ホームページ上)
4月22日:入院患者2名に感染が発生
4月24日:さらに入院患者1名、職員2名に感染が発生
4月27日:さらに職員3名に感染が発生
4月29日:PCR陽性職員9名、自宅待機者39名を報告
5月 7 日:5月6日までの状況を報告、陽性患者28名、陽性職員24名
5月14日:5月13日までの状況を報告、陽性患者29名、陽性職員34名
5月19日:5月18日までの状況を報告、陽性患者30名、陽性職員42名
2) 現在の入院患者(2020年5月20日9:00現在、院内感染以外も含む)
① 陽性患者0人
5月連休を皮切りに全ての陽性患者を大学病院、多摩病院に転院。また、改修工事により救命救急センターのICU病棟とHCU病棟はゾーニング済み。
② 疑似症患者6人
2. 感染経路について
4月上旬にかけてHCUの入院患者もしくはHCUに関与のあった医療者より当院へのウイルスの持ち込みがなされた可能性が最も示唆されました(当該患者は4月22日PCR検査陽性を確認)。さらに、その後陽性と分かった気管切開患者(ケース1。入院期間が長く、市中感染ではない)がHCU病棟から3階南病棟に転棟しました。
ケース1はその後気管切開から吹き流し(人工呼吸器につながれていない)の状態で呼吸状態が悪化し、HCU病棟に再度転棟し再度人工呼吸器装着となるまでの4日間に3南病棟の同室患者を主体とした同病棟の患者や医療者複数に感染が広がった可能性が高いと考えられます。もともと気管切開患者に用いる人工鼻はウイルス除去能のあるHEPAフィルターの機能がなく(HEPAフィルターの機能を持たせると空気抵抗が高くなるので吹き流しに不適)、エアロゾル感染やエアロゾル・飛沫による環境汚染を介した接触感染が起きたと考えられます。その後3階南病棟では部屋をまたぐ形で患者や職員に感染が起きましたが、3階南病棟でのアウトブレイクに気づいた時点ではすでに相当数の暴露がなされていたと考えられます。
また、上記、HCU病棟にCOVID-19が最初に持ち込まれた時期に、HCU病棟を利用していた患者(ケース2。その時期には2週間以上入院しており、同じく市中感染とは考えにくい)に対し、その後2階北病棟においてNIPPV(非侵襲的換気療法)が呼吸不全に対し使用されています。ケース2もその後PCR陽性となり、発熱時期が長く正確な発症年月日は不明とはいえ、陽性発覚までに同様にエアロゾル、環境汚染を介して2階北病棟の患者が広く暴露されたと考えられます。2階北病棟には複数の気管切開吹き流し患者がおり、ハイリスクな環境で患者、職員への伝播が広がったと思われます。
3階南病棟でのアウトブレイク発覚から間もなく、5階南病棟でもPCR陽性者が頻発しました(主に隣接する6人部屋の2つの大部屋より)。そのなかにはステロイド長期服用者といったハイリスク患者も含まれていました。おそらく、HCU病棟(5階南病棟へ転棟前にいた病棟)もしくは5階南病棟での入院診療時に、医療者を介した接触感染が最初に起き、その後発症患者からの飛沫感染、および医療者を介した接触感染により5階南病棟にも感染が広がったと考えられます。
なお、今まで患者からの陽性者は確認されていない4階北病棟において、職員一名の陽性者が確認されていますが、隣接する4階南病棟と休憩室は分かれている等、明確な感染経路は本報告書作成時点では明確ではありません。現在、大学病院でのin-house PCRも活用するなど疫学的調査を進めています。
3. 感染拡大の原因に関して
今後、院内外の専門家を含めて改めて詳細に検討していく必要がありますが、既に報道されている内容の通り、基本的な感染予防策が十分ではなかったことが要因のひとつとして考えられます(標準予防策の徹底不足、アルコール手指衛生消毒薬の個人携帯の周知不足、医師含む環境衛生不足(高頻度接触面の清拭など))。その他、同じように多数の院内感染が発生した他府県他施設での中間検討における指摘事項が当院においても多く当てはまると考えられます。
4. 当院の対応について
1) 市中感染者が増加する前の対応(2月~3月)
当院では令和2年2月上旬から横浜港に停留したクルーズ船 ダイアモンドプリンセス号からのCOVID-19陽性者(軽症、中等症)の受け入れを行なっており、クルーズ船患者の対応、横浜市行政から依頼のあった帰国者・接触者外来、一般外来からの擬似症を含めた対応を行いました。
2) 市中感染の拡大から院内感染発生前(4月22日まで)
3月末をもって、クルーズ船患者の対応に目途が立ったものの、国内での感染拡大、緊急事態宣言が発令されるに至るに比例して、帰国者・接触者外来受診患者が飛躍的に増加したことに伴い、救命救急センターのICU病棟、HCU病棟、4階南病棟の一部を新型コロナウイルス感染患者専用の病棟としゾーニングを施行しました。
3) 院内感染発生後(4月22日〜)
最初の院内感染が分かった翌日の4月23日、聖マリアンナ医科大学病院との初回緊急Web会議を開催し対応を協議しました。重症化した患者のICU病棟での管理や、陽性者の4階南病棟へのゾーニング拡大、疑似症患者の個室管理化などの対応措置を図りました。陽性者が存在する病棟の他の入院患者に対しては健康監視を徹底しつつ、有症状となった場合にはPCR検査(4月末からLAMP法が当院でも実施可能となり即日結果が出るため対応が早くなった)、無症状の患者で暴露リスクの低いと思われた患者は健康監視徹底の下、順次退院を進めました(すでに退院済みで濃厚接触者とされた患者に関してはフォローアップを可能な限り行なった)。並行して、聖マリアンナ医科大学関連の大学病院および川崎市立多摩病院と連携を図り、陽性者の転院を進めました。その結果、管理する患者が最初に少なくなった3階南病棟を清掃/消毒、その後3階南病棟に患者を移送し、空床化を半日作る形でHCU病棟、2階北病棟、5階南病棟の清掃/消毒作業を順次行ないました。同時に、ICU病棟とHCU病棟の一部病床の改築工事を行うことで、より安全にCOVID-19対応可能な専門病棟を作り、陽性者を1箇所に集約、4階南病棟でのCOVID-19対応を終了となりました。
5. 今後の診療体制について
第一優先として、院内感染が終息し、安全な診療環境を確認できるまで、入院、外来ともに現在行っている縮小制限を継続せざるを得ません。横浜市行政を含め、第3者による確認をいただいたうえで、徐々に通常診療に戻していくこととしたいと考えております。
以 上