だから、「私は今の政権はおかしいと思います」なんて身勝手な発言は許されない。スポンサー企業に敬遠されるということは、本人だけの問題ではなく、事務所の従業員の生活や、所属する他のタレント全員に関わってくる問題なのだ。

 そのあたりは、今回のメンバーを見ても明らかだ。このムーブメントの口火を切った井浦新さんは大手事務所テンカラットに所属して、テレビCMにも出演されているものの、同調して加わった方たちの多くは、大手事務所の所属ではない。小泉今日子さんや水原希子さんにいたっては、独立して個人事務所に所属している。

 つまり、「組織人」としてのしがらみが少ない芸能人ほどフットワーク軽く、政権批判の声があげやすいという側面もあるのだ。

芸能人には自ら進んで
権力に協力してきた過去も

 ただ、これらの2つの理由よりも、芸能人の政権批判を許せない社会ムードに最も影響を与えているのは、3つ目の「芸能人は国のために率先して協力すべき」という思い込みではないか、と個人的には考えている。

 なぜかというと、これは思い込みというよりも動かし難い歴史的事実だからだ。そもそも、皆さんは政権批判をしている芸能人を思い浮かべていただきたい。明確に政権批判のフラッグを立てている人は数えるほどしかないのではないか。

 大多数の芸能人は、ワイドショーで当たり障りのないコメントをするくらいで、「桜を見る会」などに呼ばれると大ハシャギで参加するし、大臣から文化勲章ももらうし、政府のイベントやキャンペーンもお声がかかれば喜んで引き受ける。つまり、この国の芸能人は「国のために率先して協力する」という姿が長く当たり前であって、権力批判をする者などほとんどいなかったのだ。

 という話をすると、「いや、歌舞伎や狂言などは権力者を笑い者にしてきたではないか」と言われるかもしれないが、それは江戸時代から明治にかけての話であり、近代になってから状況はガラリと変わっている。

 たとえば、戦後の日本映画界を支えた監督や役者の多くは、戦時中軍部に協力し、国威を発揚する映画などに関わっている。落語の世界もそうで、自ら進んで今のムードに合わない演目を自粛した。いわゆる、「禁演落語」だ。