これにはちゃんと理由があって、そのような芸能人には所属事務所から「政治の話はNG」ときつく指示が出ているからだ。と聞くと、「政権からの圧力だ」とか「忖度だ」とか言い出す人もいるが、そういう話ではなく、これが広告ビジネスとして守るべき最低限のマナーだからだ。

 世界的ヒット映画を一発生み出せばセレブ生活が送れるハリウッドスターと異なり、日本の芸能人はテレビCMを頂点とする広告ビジネスを大きな収益の柱としている。一方、スポンサー企業側からすれば、その芸能人の知名度やイメージ、ファンの多さに価値を感じて巨額の契約金を払っているので、不倫や不祥事などのスキャンダルはもちろん、「安倍首相は即刻やめろ!」などという政治的発言は絶対に控えてもらいたい。

 もし炎上したら、「なんであんなのをCMに起用したんだ」などと巻き添えをくらって、社内でも責任問題に発展してしまうからだ。

 こういうビジネスモデルがゆえ、人気芸能人になればなるほど発言は「中立」になっていく。昭和のスターや、テレビに引っ張りだこの人気者が政治的発言をしないのは、思想的に中立だからというわけではなく、スポンサーや関係各位に迷惑をかけないように発言を自粛する「ビジネス的中立」なのである。。

言論統制に拍車をかける
芸能事務所という異様な存在

 そして、この芸能人の「発言自粛」にさらに拍車をかけているのが、日本の芸能ビジネス特有の「専属マネジメント契約」であることも忘れてはいけない。

 吉本問題のときに注目を集めたように、日本の芸能事務所というシステムは世界的に見てかなり異質だ。海外のショービジネスでは、歌手でも俳優でも、エージェントと契約を結んで彼らが仕事をとってくるので、「個人事業主」だ。しかし、日本の芸能人は違う。まず、事務所に「所属」をしないことには何も始まらない。

 芸能人が成功するのは、本人の才能や努力もさることながら、事務所によるバックアップがあってこそという考え方なので、「人気芸能人」というのは、その事務所にいるスタッフや他の所属芸能人への影響を考慮して立ち振るまわなくてはいけない。要するに、「組織人」なのだ。