犬の散歩以外の黒川氏の趣味は麻雀とカジノ
「黒川氏は『自分が総長にならない方がいい。自分はこれまで“安倍政権べったり”などと散々悪口を言われてきた。新任検事や若手の検事がトップをみて、士気が下がるのが怖い』と敢えて意欲を隠してきました。ところが、その言葉とは裏腹に、昨年9月の内閣改造では菅氏に近い河井克行氏が法相として入閣。黒川氏の総長就任への布石だとの見方が広がり、河井氏が公職選挙法違反の疑惑で辞任した10月以降、検察首脳人事は再び迷走を始めるのです」(検察関係者)
現総長の稲田氏は、今年4月に京都で開催される「国連犯罪防止刑事司法会議」に出席し、そこでの講演を花道に退官する予定だったが、官邸の意を受けた辻裕教法務次官から黒川氏の63歳の誕生日までに退官するよう暗に迫られ、“焦り”を滲ませていた。
「その意趣返しか、事件捜査に慎重だった稲田氏が年末年始を挟んで河井夫妻の徹底捜査を指示。担当する広島地検には岡山や山口、そして大阪地検特捜部からも応援検事が入り、1月15日の一斉家宅捜索に繋がったのです。稲田氏は河井捜査で菅氏側にプレッシャーを掛けたともっぱらでした」(同前)
さらに1月下旬には、IR汚職の捜査で新たに「500ドットコム」とは別の大手カジノ事業者日本法人にも家宅捜索が入ったことが明らかになった。一連の捜査に、菅官房長官は「正規の献金までやり玉に挙がっている」と不快感を示し、杉田副長官も「あまりに荒っぽい。特捜はどこまでやるんだ」と周囲に危惧を漏らしているという。そんな最中に両氏と近しい黒川氏を次期検事総長に内定させるかのような史上初の定年延長を発令すれば、捜査現場に与える心理的影響は計り知れない。それこそが安倍官邸の狙いではないのか。
「皮肉なことに黒川氏の犬の散歩以外の趣味は麻雀とカジノ。休日にはマカオや韓国にカジノに出掛けることもあるそうで、カジノの内情を知る彼はIR捜査に一見積極的だった。河井氏についてもかつて法務副大臣だった頃の高圧的な態度が我慢ならなかったようで、捜査にはっぱをかけていた。つまり、彼は捜査を煽る一方で、官邸には調整役として恩を売る。彼が“腹黒川”と揶揄される所以で、そうして自分の存在意義を高め、総長の座をほぼ手中に収めたのです。
禁じ手人事の見返りに、黒川氏は今後官邸側から、河井捜査だけでなく、菅原一秀議員の公選法違反の捜査でも議員らを無罪とするための役回りを負わされかねません」(同前)
特捜部を率いる森本宏部長は2月に地方の検事正に転出する見込みだったが、5月まで在任期間が延びたとされる。17年9月からの異例の長期態勢を率いるエースの後ろに最後まで君臨するのも黒川氏となった。
官僚の忖度を数多招いてきた安倍長期政権に、最後の“聖域”も膝を屈した。