ずぶの素人が放送作家に応募…持ち込んだ台本にディレクター驚く
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(24)
フリーのコピーライターで生計を立てていた1981年秋。新聞の芸能欄の片隅にあった広告が、私の運命を変えました。「ゲバゲバ90分!+30」の新人放送作家募集です。あの人気バラエティー番組「巨泉×前武(まえたけ)ゲバゲバ90分!」の特別編が翌年春に放送されるというのです。
「巨泉×前武-」は69年から71年まで放送されました。大橋巨泉と前田武彦が司会を務め、ゲストの芸能人らがショートギャグを繰り広げる、テレビが面白かった時代の伝説的番組。ハナ肇の流行語「アッと驚くタメゴロー」もここで誕生しました。
巨泉、前武不在の特別編とはいえ、あの番組に携われる。ムムッ。「プロも初心者も可」の応募条件に、ずぶの素人だった私はムムムッと引かれました。佐世保で暮らしていた頃、けんかばかりしていた海老原家でしたが、お笑い番組になると14インチの白黒テレビの前で家族そろって笑っていたのを思い出しました。
コピーライターの仕事に飽き飽きしていた私。そこにギャグコントの募集。興味を引かれ、思いつくまま書きまくり、束になった原稿を持って当時は東京・麴町にあった日本テレビに向かいました。
面接したのは番組ディレクターの斎藤太朗さんでした。「バラエティー演出の鬼才」と呼ばれ、後にみのもんたの「おもいッきりテレビ」も担当した名物ディレクター。私の台本を見るなり「えっ、こんなに書いたの」と、アッと驚くタメゴローのような表情をしました。これも作戦。相手に強い印象を持たれるかどうかが勝負。コピーライター時代からやっているセルフプロデュースです。持参したギャグコントは100本。例えば-。
歩道に血だらけの人と壊れた自転車がある。そこに救急車がやってきて、けが人ではなく自転車を担架に乗せて帰る。
ビルのエレベーターのボタンを押す。エレベーターのドアが開くとそこに長い階段が…。
応募したのはプロの放送作家や漫画家を含め120人ほど。面白いかどうかは相手が決めること。印象づけるには誰よりもたくさん書こう。コクヨの原稿用紙に書きまくりました。斎藤さんはあきれながらも背筋を伸ばし、一本一本、丁寧に読んでくれました。
果たして1次面接は突破し、10人に残りました。最終面接で選ばれるのはただ1人。勝負です。
(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年07月13日時点のものです