ところが安倍首相はその結果を検証しないで、5月7日以降も延長を決めた。それに異を唱えたのが、大阪府の吉村知事だった。これを見て国もあわてて出口戦略を決め、一部解除を決めたが、それならなぜ延長したのか。延長する前に専門家の意見を聞かなかったのか。

迷走を続けた専門家会議

 安倍政権の新型コロナ対策は、迷走の連続だった。まず2月上旬にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で大規模な感染が発生し、日本政府の対応が世界の批判を浴びた。この事件で日本政府の初動体制は早く、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が1月30日に設置され、専門家会議が2月14日に設置された。

 これは欧米に比べると1カ月近く早かったが、その専門家会議は2月24日に「これから1~2週間が、感染が急速に進むか収束できるかの瀬戸際だ」という見解を発表した。これは感染爆発が起こるとも起こらないとも解釈できる玉虫色の表現だった。

 だが安倍首相はその2日後の2月26日に、全国の学校に一斉休校を要請した。これは専門家会議にもはかられず、これ以降、政府の新型コロナ対策は官邸主導で、専門家会議がそれを追認する形で進められた。

 専門家会議は慎重で両論併記だったが、何もしないと世論の突き上げを食う安倍政権は強硬派に傾斜し、両者の温度差が広がった。

 そこに現れたのが西浦氏だった。彼は専門家会議のメンバーではなかったが、東京都の小池知事の顧問となり、「何もしないと42万人死ぬ」というシミュレーションをマスコミに売り込み、それを減らすために8割の接触制限が必要だと主張した。

 これは全国の感染速度(再生産数)が1以下だったとき、それを(根拠なく)2.5として計算した架空のシミュレーションだが、政府がそれを採用した。

 安倍首相は4月7日の緊急事態宣言で「(東京都では)このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」と西浦氏の受け売りで「7割から8割の接触削減」を国民に求めた。

 それによる外出制限は人々の生活を大きく変え、企業経営を破壊し、日本経済に莫大な損害を与えたが、ほとんど何の効果もなかったのだ。