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【社説】

コロナ禍と文化 支援のさらなる充実を

 コンサートや演劇が中止され、美術鑑賞の機会も失われた。コロナ禍は私たちから文化の薫りを奪い、芸術や芸能に携わる人たちや団体は未曽有の苦境にある。官民で始まった支援の充実を急ごう。

 美しい歌声や立派なせりふ、楽しい噺(はなし)が舞台から消え、音楽家や俳優、落語家や裏方さんたちの悲鳴が聞こえる。「公演がキャンセルされ、収入がない」と。

 美術館では、時間をかけて準備した展覧会が中止に。「会期が終わってもいないのにポスターを外すのは初めて」と学芸員は嘆く。

 企業や学校さえ休む中で、芸術や芸能の活動が制約を受けるのはやむを得ない一面もある。ライブハウスや合唱サークルが感染のきっかけとなった例もあるためだ。

 だが人は、食べて、寝てと必要最低限の行動だけで日々を過ごせるものではない。音楽やアートに胸を躍らせ、落語や演芸に腹を抱え、映画や芝居に涙する、そうした一見は「不要不急」の営みが、実は私たちの日常と人生を豊かに彩ることを今こそかみしめたい。

 その点で記憶に刻むべきは、ドイツの文化相グリュッタース氏の訴えだ。「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命の維持に必要」。至言であろう。

 ドイツはすでに三月、個人のアーティストなどを対象に、三カ月間で最大九千ユーロ(約百万円)を受け取れる制度を創設。日本の文化人からもうらやむ声があがった。

 その日本でも官民による支援が始まった。文化庁は補正予算に、地域で文化や芸術に関わる団体や個人による公演や展示を行う予算(十三億円)などを計上した。

 東京都は「アートにエールを!東京プロジェクト」を開始。第一弾として、活動を自粛したプロの団体や個人のアーティストから動画作品を募り、出演料を支払う。愛知県は、活動の場が減った県内のアーティストや文化芸術団体に独自の「応援金」を交付する。

 また三井住友フィナンシャルグループは、日本オーケストラ連盟に一億円を寄付した。こうした大口の寄付に加え、一般の人によるネットを利用したミニシアターなどへの寄付も盛んだ。

 だが芸術や芸能の関係者や団体には、フリーランスが多かったり運営の基盤が弱かったりと、経済的に豊かではないケースも多い。それだけに今後、一層の効果ある支援が必要だ。「心の豊かさ」を目指して活動する熱意まで、コロナ禍に奪われてはならない。

 

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