もしも存在Xに娘がいたら   作:原作女である意味あんまりなくない

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第1話

「ならば、その状況にぶち込めば、貴様でも、信仰心に目覚めるのだな?」

 

マズったかと思った瞬間、涼やかな声が割って入る。

 

「ねえお父様」

 

次いで声の主が姿を現した。見かけは若い女だ。10代後半くらいに見える。彼女の登場とともに風が吹いたような錯覚すら生じた。銀の髪に青いワンピース。髪色以外の容姿や、全体的な雰囲気は、「何度目だ」と言われる国民的アニメのヒロインに似ている。

というか、この存在Xに娘だと?

 

「おお、Σοφια。どうしたのかね?」

 

老爺の姿をした存在Xが相好を崩している。ジジイのデレ顔など気持ち悪いだけなのだが。それにしても、彼女の名前が呼ばれているらしいのだがそれが認識できないのはどういうわけだ?

 

「これからΜαίρηちゃんとΜαδοκαちゃんと、Eξα=Πικοさまにお茶会にお呼ばれしたところなの。それよりも、Αματεράσου様のところの人を勝手に掬って良いの? それにΜετεμψύχωσιςはΜαίρηちゃん……じゃなくて基本Βούδας様かΤριμούρτι様方の役割でしょ? Αματεράσου様のところの人だったらΒούδας様が担当するって私聞いていたのだけれど」

 

彼女ーーとりあえず娘と呼ぼうーーの返答にもノイズが混じる。しかしお茶会とは、何とも良い御身分のようで。

 

彼女も存在Xと同様心を読めるのかは知らないが、私と存在Xとの対話に割って入った割には、私のことをみていない。

 

「Αματεράσουからの許可は得ておるよ。彼女のところのは信仰無きと自認していても実は敬虔な輩が多いものだが、これは心底何も信じておらん。そのくせ信念を持って公に神を、神秘を否定する勇気も無い臆病者だ。彼女は正直者、人情を思いやる者も好むが、その上こいつはそのどちらでもない。端的に言って直接手を下さぬだけで、殺す行為自体は楽しむ上に、幾人もの嘆きの原因だ。屑だな。しかも手を下さぬ理由が、法律で罪になるからというだけの根っからの良心の無さ。Αματεράσουもいい加減愛想を尽かしておったようでな、確認をとったら『あなたはこういうの慣れておいででしょうからどうぞご自由にお使いくださいまし』だそうだ」

 

「ふーん、まあΒούδας様もさほど気にはなさらないでしょうけど……」

 

娘は細い指を顎に当てて考え込む。

 

「これとは何の契約もしておらん。契約を交わしたものにその通りにしなかったら問題だろうが、契約無き輩を留め置くこと無く転生させても何の問題もあるまい?」

 

問題大有りだが。

 

「それは確かにそうね。で、どういう風にしようと思っていたの?」

 

「女として、魔法があり、争いの絶えない時代で、貧しく追い詰められるように生まれさせてやろうと思ったのだが」

 

「ダメよそんなのじゃ。自己防衛の大義名分を得て今度こそ嬉々として……いや何か思うことすらせず殺生の罪を犯すに決まっているわ。いっそ快楽殺人鬼の方が、切実な分健全に思えるくらいかしら。そうね、女であることはそのままに、平和で穏やかで、物質上は追い詰められてはいない世界にお行きなさいな。そこで罪を濯ぎ、慈しみと、他人の痛みを感じることを学んでいらっしゃい。ふふっ、どうせならとびっきり可愛らしく、Μαίρηちゃんのような容姿に、Μαδοκαちゃんみたいな声というのも悪くないわ。二人のように他人のために心底から身を投げ出せるくらいになれれば良いわね」

 

他人の為に身を投げ出すだと? 彼女はここで初めて私に向き直る。優しげで美しい笑みを浮かべているが、どうにも悪寒が止まらない。

 

「というわけでΑματεράσου様直伝、一夫多妻ーーじゃないけど去勢拳!」

 

ロリ監督のヒロイン似な少女が、私の股間(としか言えない部分。私は肉体なき魂の状態であったはずなのに!)に蹴りを放つ。身じろぎ一つできずに、私は(拳って名称なのに蹴りなのかよ……)と思いながら激痛に意識を沈めた。


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