検査の使い分け
検査をどのように考え、使い分けるのか
PCR検査・抗体検査・抗原検査など、どう違い、どのように使い分ければよいのでしょうか。
抗体検査
抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、体内に異物が侵入したときに攻撃する武器の一つです。 免疫グロブリンとも呼ばれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類があります。新型コロナウイルスでは発症から約2週間で8割の人が、約3週間でほぼ全ての人がIgMまたはIgGが陽性になります。ただし、抗体は感染してすぐには作られませんので、発症してからしばらくは血液中の抗体を測定しても検出されない時期があります。 発症から早い時期でIgMが、その後IgGが上昇してきます。発症して間もなくは、抗体を測定しても検知できないので、新型コロナの抗体検査が陰性であっても発症して2週間未満であれば感染していないと断定できないのです。
世界中で実施されている抗体検査の中には性能が不明なものもあり玉石混交です。まだまだ性能はキット間の差が大きい可能性があり、結果をうのみにするのは危険です。
これらの抗体検査で陽性となり、新型コロナウイルスに感染したことがあると分かっても、それが意味のある免疫なのかどうかは別な問題なのです。現在のところ、新型コロナウイルスに一度感染し、回復した患者さんの中で産生される抗体によって、再感染が防げるかどうかなどはまだ詳細が分かっていないのです。
抗原検査
では抗原は何でしょうか。ウイルスなどの病原体が体内に入ってきた際に、ウイルスのタンパク質が抗原として認識され、抗体が抗原を捉えます。これを抗原・抗体反応といって、人間のウイルスに対する免疫反応の一つです。この結合により抗原はマクロファージなどの細胞に食べられやすくなります。抗原検査とは、このウイルスのタンパク質である抗原を検出するものです。
従来から馴染みのあるインフルエンザの簡易検査が抗原検査です。インフルエンザウイルスの検査はかなりの確率で偽陰性や偽陽性がわかります。つまり、感染していないのに陽性と出たり、感染しているのに陰性と出たりします。新型コロナウイルスでも抗原検査はPCR検査と比べてかなり正確性は劣るようです。
抗原検査は約30分と短時間で検査結果が判明するのが特徴です。一方で、感度はPCR検査ほど高くはないことから、「重要な基本的注意」として、「判定が陰性であっても、SARS-CoV-2感染(新型コロナウイルス感染)を否定するものではない」として非感染の確定診断にはPCR検査が必要とされています。
また、現在の検体採取は鼻咽頭から検体を取るので、医療従事者への感染リスクは従来の検体接種法のPCR検査と変わりません。ただし将来的には、より感染のリスクが低い唾液を検体に使うことも考えられています。
PCR検査
PCR検査はウイルスの遺伝子の一部分を測定しますので、発症してウイルスが増えている状態で検査を行えば陽性となります。鼻咽頭のPCR検査は約3週間まで陽性になり続けます。最近話題の唾液は約2週間以内には検知できなくなります。新型コロナウイルスはインフルエンザと異なり、感染初期には口腔内でのウイルスの量が多いことが分かってきました。ですから鼻咽頭からの検査と感染初期から14日までは、ほぼ100%一致していることから唾液検査の採取時の安全性から今後使用が促進されるものと考えます。ただし新型コロナウイルスのPCR検査の感度は高くても70%程度です。つまり、30%以上の人は感染しているのに「陰性」と判定され、「偽陰性」となります。検査をすり抜けた感染者が必ずいることを、決して忘れないでください。つまり、検査は、病原体の非存在証明にはならないのです。「安心」を目標とする検査として考えることは有害です。
抗原検査とPCR検査をどのように考え、使い分けるのか
つまり、今感染しているかどうかを知るためにはPCR検査と抗原検査が向いており、過去に感染していたかどうかを知るためには抗体検査が適しているということになります。
さて、抗原検査とPCR検査はどちらも「今感染しているかどうか」を診断するためのものです。
では、抗原検査とPCR検査の2つの検査はどう使い分ければよいのでしょうか。抗原検査は約30分で診断できるというメリットがある一方、感度はPCR検査に劣るとされます。抗原検査は感度が低く、特異度は高いのです。つまり「本当の感染者を見逃してしまうことはあるが、陽性と出た場合の結果は信用できる」ということです。いずれにしても「抗原検査が陰性であっても新型コロナを否定はできない」「抗原検査が陽性であれば新型コロナと診断できる」と考えて良さそうです。
現在想定されている使い方は、新型コロナが疑われた方に抗原検査を施行し、陽性であれば新型コロナと診断、陰性であっても確定例との接触歴や渡航歴、臨床症状などから新型コロナが否定できない場合にPCR検査を行うという流れです。このことから、感染が不明な患者さんが救急などで医療機関に来院されたときには、抗原検査をすぐさまに行い治療体制を整えるということになります。抗原検査により診断までの時間は短縮化されるというメリットがありますが、診断までに2度の検査が必要になる事例が出てきます。今後は抗原検査の精度改善やPCR検査の時間短縮などで医療機関の対応が変わってくることが期待されます。
今後の抗体検査はどうなるのか
では抗体検査はどのように考えればよいのでしょうか。献血の検体を用いて抗体検査をしたところ0.6%が陽性であったというものです。これはPCR検査などで確定診断された患者以外に、診断されていない(主に無症状~軽症の)症例がどれくらいあるのかを把握する上では抗体検査が適していることを示しています。しかしながら、この反応がいつまで体内でとどまり続けるのかはこれからの問題です。抗体検査は個人個人の診断というよりも、感染症の全体像を把握し、公衆衛生上の対策に役立てることが主体になります。
抗体検査の解釈の問題点
しかし、抗体検査の結果の解釈には注意が必要です。 東京都の人口927万人のうち0.6%である55620人が新型コロナに感染していたということになり、実際に都内で診断されているよりも約10倍の感染者がいるということになります。 しかし、抗体検査キットの精度が問題です。コロナウイルスの中には風邪の原因となるヒトコロナウイルスも4種類ありますが、これらの風邪のウイルスと交差反応が起こり、風邪を引いた人でもこの新型コロナの抗体検査キットが陽性になってしまう可能性もあります。
いずれの検査も、正しい時期に使うことと、結果を正しく理性的に解釈できることが大切です。心配で安心したいからと安易に検査を求める人が多ければ多いほど、本当に検査が必要な人が受けることができなくなります。感染疑いのある人が速やかに検査できるようにして、その後の治療に結び付けたいものです。