検察庁法改正案は今国会での成立が見送られた。政権の判断で定年延長などの「特例」人事が認められる法案だ。「三権分立に反する」などと反対する大きな世論の高まりが押しのけたといえる。
十八日にも元東京地検特捜部長らOB三十八人が法案に反対する意見書を提出した。「将来に禍根を残しかねない今回の改正を看過できない」と厳しい口調で書かれている。十五日には元検事総長や元検事長らの意見書も法務省に出されており、検察OBらの危機感が一挙に表面化した。
国民の危機感も、会員制交流サイト(SNS)のツイッターで抗議の投稿が大量に拡散されたことで明らかだった。とくに俳優やミュージシャン、作家ら著名人も反対の声を上げ、うねりとなって表れていた。
安倍政権が改正案の今国会での成立を断念したのは、早期成立を図る第二次補正予算案への影響を回避したい思惑があったのだろう。さらに世論や野党の批判が強まる中で採決を強行したら、政権自体へのダメージが大きいとの計算もあったに違いない。
少なくとも「反対」という市民らの声の高まりが与党の強行策を封じ込めたことは確かである。だが、この問題を秋の臨時国会で蒸し返されるのはごめんだ。
そもそも政権が認めた場合に限り、六十三歳以降も検事長などの役職のままでいられる「特例」、あるいは最大三年、定年を延長できる「特例」が問題なのだ。いずれの特例でも政権による人事の介入が可能になり、検察の独立を脅かすからだ。だから、この特例規定を廃止せねばならない。
国家公務員の定年を六十五歳にすることにも、検察官の定年をそれに合わせ、六十五歳にすることにも異存がない。法案をそれに絞れば済むことである。
問題はもう一つ残っている。東京高検の黒川弘務氏が検事長の職のままでいることに「違法」の疑いが持たれている。
いくら首相が「解釈を変更した」と言っても、それだけで異様な人事が合法になるわけではない。
むしろ検察庁法改正案は「後付け」で黒川氏の定年延長を合法化する狙いだったとされる。同氏の定年延長は法的根拠が疑わしい。ただちに撤回されるべきである。
なぜ前例のない黒川氏の人事がなされたか。この疑問についても今後の国会審議の中で、政権側は回答せねばならない。
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