法要や儀式における作法
平常の基本的な姿勢は、次の通りである。
(1)正座(せいざ)の姿勢
腰を正しくすえ、両ひざをそろえて正しく座る。上体をまっすぐに保ち、眼は水平よりも少し低いところ(約3メートル前方)を見て、両手は念珠を持った左手を上にして組み、ひざの上に自然に置く
〔注〕
従来は「平座」と呼称したが、法式規範では「正座」と表現を改めた。
(2)起立(きりつ)の姿勢
両かかとをそろえてつけ、両足先は約30度に開いて立つ。上体をまっすぐに保ち、眼は水平よりも少し低いところ(約9㍍前方)を見て、両腕は自然に垂らす。
(3)腰かけた姿勢
十分深く腰をかけて、両足を少しうしろの方に引き、つま先を閉じて座る。上体をまっすぐに保ち、眼は水平よりも少し低いところ(約5㍍前方)を見て、両手は正座の姿勢と同じように組む。ただし、中啓または夏扇を所持する場合は右手に持ち、念珠を持った左手はかるく握ったまま、両手をひざの上に置く。
合掌は、両手を合わせて親指と他の四指との間に念珠をかけ、十指をそろえて伸ばす(親指はかるく念珠を押さえる)。両ひじを張らずに両手を胸の前で合わせ、指先と上体とを約45度に保って称名念仏する。
礼拝するときは、合掌したまま静かに上体を約45度前方に傾けてから、おもむろに元の姿勢にもどして合掌をとく。
揖拝は「一揖(いちゆう)」ともいい、起立の姿勢で合掌せずに上体を約15度前方に傾けてから、おもむろに元の姿勢にもどすことをいう。
歩行するときは、静かに左足から歩み出して、1㍍をおよそ二歩の歩幅で歩むのを適度とする。
進行方向のまま向き直らずに後退するときは右足から引き、階段を昇降するときは一段ごとに両足をそろえる。うしろに向きを変えるときは通常右回り(時計回り)をするが、そのとき尊前に背を向ける場合は左回りとする。
また、二人並んで同時にまうしろに向く場合は、二人が互いに向き合うように内側へ回る。
内陣に入堂するときは後門より入る。左右の脇壇前および須弥壇横では、進行方向のまま向き直らずに立ち止まって一揖し、回畳の定められた席に着座する。
退出するときは、自席より起座して、入堂と同じ要領で後門を通って退出する。
〔注〕
①入堂・退出は、後門をへて行うのが通例であるが、内陣の正面または余間より行う場合もある。
内陣正面より入堂・退出するときは、敷居ぎわで御本尊に向かって一揖する。②余間または外陣において、尊前および須弥壇のま横を通るときは、立ち止まって一揖する。
ただし、数名以上が一列になって通る場合は、歩行のまま一揖してもさしつかえない。③回畳の上を通って入堂・退出することはなく、必ず板敷きの上を歩行する。
平常の姿勢のほか、おつとめをするときの姿勢は次の通りである。
(1)蹲 踞
正座の姿勢から両かかとを上げて腰をその上にすえ、両ひざを閉じたまま上げて、上体をまっすぐに保った姿勢。
(2)
跪
正座の姿勢から左ひざを立て、上体をまっすぐに保って座った姿勢。無量寿経作法・観無量寿経作法において、導師が礼盤上で行う座法。
(3)楽 座
胡座(あぐら)と同じように足を組んで座った姿勢。
楽を奏するときの奏楽員(楽人)の座法であるため、この名がある。
(4)半 跏
楽座の姿勢から、左足を右太ももの上にのせて座った姿勢。
本山の宗祖降誕会の無量寿会作法において、証誠・題者・問者の諸役が行う座法。
内陣で着座するときは、自席に正対して両ひざを回畳につき、中啓を持ち直して要部でかるく畳を押さえる。次に、歩いて来た方に背を向けながら、片ひざを軸に半回転して正座の姿勢をとる。
中啓は、なるべく畳の縁にかからないようにし、ひざの前に要部を右に向けて横一文字に置く。
着座するとき、自席の前に経卓がある場合は、立ったまま卓の手前から座上に進み、正面に向いてから正座の姿勢をとる。また、導師が降礼盤のあと導師席に着座する場合は、外陣に背を向け右回りして着座する。
内陣で起座するときは、右手で中啓をとり要部でかるく畳を押さえ、座上で蹲踞する。その姿勢のまま前に進み、板敷きに下りてから起立する。起座ならびに退出するとき、自席の前に経卓がある場合は、座上で蹲踞してから起立し、卓を大回りしない側(後門など出口に近い方)から板敷きに下りる。
〔注〕
①余間などにおいても、法式の上からこれを内陣とみなす場合は、すべてこの作法による。
②余間や外陣、その他の場所で着座するときは、経卓の有無にかかわらず、立ったまま自席に進んで着座する。中啓は、膝付(ひざつき:四方に縁の付いた真四角の畳)や薄縁(うすべり:畳表に縁だけを付けた敷物)に座った場合は畳の上に、円座(円形の敷物)の場合は板敷きの上に置く。
また、起座するときは座上で起立してから退く。③華籠や柄香炉を保持して着座・起座する場合の作法は、「執持法」の華籠・柄香炉の項を参照されたい。
焼香するときは、焼香卓の手前で立ち止まって一揖し、卓の前に進んで着座する(膝付または薄縁がある場合は、その上に着座する)。次に、香盒(こうごう:香を入れる器)の蓋を右手でとり、右縁にかける。香を一回つまんで香炉に入れ、香盒の蓋をして合掌礼拝する。礼拝が終われば、起立して右足から後退し(膝付または薄縁がある場合は、起立して右足から下りる)、両足を揃えて立ち止まり、一揖して退く。
なお、脇壇や余間などで香炉の位置が高い場合や、そのほか会館などで高い焼香卓を用いる場合は、起立したまま焼香する。また、膝付または薄縁がある場合は着座してから合掌礼拝し、ない場合は起立したまま合掌礼拝する。
〔注〕
①焼香の準備をするとき、三具足または五具足などの金香炉の蓋は、あらかじめ香炉の左側に置き、香盒は香炉の右側に置いておく。また、焼香卓を用いる場合は、香炉の手前に香盒を置き(置けない場合は、香炉の右側の適当な場所に置く)、香炉の蓋は用いない。 いずれの場合も、香炉のなかには炭火を用いる。
②内陣において、脇壇および低い焼香卓などの前で焼香する場合、原則として膝付を用いる。
③中啓を保持しているとき、正座して焼香する場合はひざの前(膝付または薄縁があるときはその上)に横一文字に置き、起立したまま焼香する場合はえり元にさす。
④柄香炉を保持しているときは、香炉の部分を前方にして、卓上の右方にたてに置く。卓の上が狭くて置けない場合は、中啓を半開きにして畳や敷物などの上に置き、その上に香炉の部分をのせて置く。
起居礼は、尊前において蹲踞ー起立ー蹲踞する礼拝の動作で、柄香炉を胸の前に保持して行う場合と、合掌して行う場合がある。また、導師が礼盤前または礼盤上で行う場合と、結衆が回畳の上で行う場合がある。
(1)導師が礼盤前で行う場合
礼盤前に蹲踞し、右手で脇卓の柄香炉をとり、胸の前に保持(「執持法」を参照)して静かに起立。一呼吸ののち再び蹲踞する。
(2)導師が礼盤上で行う場合
向卓の柄香炉をとり、胸の前に保持して礼盤上で蹲踞(またはコ跪をして蹲踞)し、定められた字句で起立。その後、定められた字句で再び蹲踞する。
(3)結衆が起居礼をする場合
正座の姿勢から合掌(柄香炉を保持する場合は、両手で胸の前に保持)して蹲踞し、静かに起立。一呼吸ののち再び蹲踞する
〔注〕
①起居礼を一回行うことを「一拝」、三回くり返して行うことを「三拝」という。
②導師と結衆が、同時に行う起居礼を「同時総礼」という。
③起居礼に際しては柄香炉を保持し(保持しない場合は合掌して行う)、中啓や華籠は置いたままにしておく。
導師が法要中に礼盤に座すことを「登礼盤」といい、礼盤から降りることを「降礼盤」という。
○登礼盤の作法は、次の順序で行う。
1通常、導師は右脇壇側(向かって左)(ここにおいては、御本尊より見て左右を説明している)の回畳の第一席(最も外陣側)に着座し、合掌礼拝のあと起座して、須弥壇横および両脇壇前で一揖して正面に至る。
2敷居ぎわに起立し、御本尊に向かって一揖する。
3左足より進み礼盤前で蹲踞して、中啓を磬台の両脚の間に置く。
4右手で脇卓の上にある柄香炉をとり、左手を添えて胸の前に保持する。三拝(起居礼)したあと、蹲踞したまま右手で柄香炉を脇卓の元の位置に置く。
5姿勢を正して、ひざを礼盤上へ左―右ー左ー右と進めて正座する。
6衣体の乱れを整えたあと、右手で柄香炉をとり、向卓の右方にたてに置く。
7右手で磬台から磬枚(打棒)をとり、柄香炉の右側にたてに並べて置く。
8右手で念珠を左手の手首に掛けた後、脇卓の塗香器のつまみを持って蓋をとり(蓋は台の縁にかける)、右手で香を少しつまんで左手の掌に受け、静かに右手ですりひろげる。再び香をつまみ、同じようにすりひろげ、両手で胸部をかるく2回なでおろし、手首に掛けた念珠を右手で元に戻す。
9前卓の香盒の蓋をとり(蓋は香盒の右縁にかける)、焼香を2回する。香盒の蓋を閉じて、合掌礼拝する。
10懐中より声明本をとり出し、両手で頂戴してから開いて向卓に置く。
11右手で磬枚をとり、磬一音して磬枚を向卓にもどす。
12右手で柄香炉をとって左手に持ちかえ、右手で磬枚をとって二音目を打つ。磬枚を置き、両手で柄香炉を保持して調声し、同音になれば置く。
○降礼盤の作法は、次の順序で行う
1声明本を閉じ、両手で頂戴してから懐中に納める。
2香盒の蓋をとり(蓋は香盒の右縁にかける)、焼香を一回する。香盒の蓋をして、合掌礼拝する。
3右手で磬枚をとり、磬台にかける。
4右手で柄香炉をとって脇卓に移し、塗香器の蓋をする。
5右ひざから右ー左ー右ー左と後退し、礼盤の手前で蹲踞する。
6右手で柄香炉をとり、左手を添えて胸の前に保持し、一拝(起居礼)して蹲踞する。右手で柄香炉を持ち、脇卓の元の位置に置く。
7右手で中啓をとって起立し、右足より引いて敷居ぎわまで後退し、一揖する。自席に至り、外陣に背を向け右回り(時計回り)して着座する。
〔注〕
①登礼盤をするとき、導師は右脇壇側(向かって左)の回畳の第一席(外陣側)に着座して、合掌礼拝する。奏楽がある場合は合奏から起座し、伽陀または総礼頌があって奏楽がない場合は同音から起座する。
②降礼盤をするときは、最後の磬二音のあと動作をはじめて自席に還る(奏楽がある場合は、合奏から動作をはじめる)。
③内陣以外の場所で登礼盤・降礼盤を行うとき、中央の尊前で起立する位置を定められない場合は、礼盤の三歩ほど手前で起立する。
④両脇壇のすぐ前や須弥壇のま横を通過するときは、入堂・退出の場合と同様に立ち止まり、御本尊の方へは向き直らず、進行方向を向いたまま一揖する。
⑤法要中に散華や行道などのために登・降礼盤をするときは、磬枚や塗香器の蓋はそのままとし(柄香炉のみ保持)、礼盤前での起居礼も行わない。降礼盤のとき中啓は保持する。
⑥登・降礼盤の作法中に行う合掌礼拝は、導師だけで諸僧は行わない。ただし、導師が導師席に着座しないで登・降礼盤をする場合は、諸僧は導師とともに合掌礼拝する。
⑦柄香炉・磬枚、塗香器および香盒の蓋をとるときや、もどすときは、すべて右手で行う。
⑧縁儀または庭儀において、正面より入堂する場合は導師席に着座しないこともある。
⑨登礼盤時の用意として、前卓の土香炉と金香炉を入れ替え、向卓の立経台を撤去し、据箱を用いる場合は、あらかじめ向卓に準備し、なかに表白、声明本などを納めておく。
立列は、主として散華などをするとき、諸僧が座前に起立して整列することをいう。立列するときは蹲踞のあと、そのままの姿勢で左足から座前に進んで起立する。
復座は、諸僧が座前立列から、自席にもどって着座することをいう。回畳に復座する場合は、一揖のあと右足から後退し、回畳に上がってから着座する。また、座上で起立してから復座する場合は、そのまま着座する。
〔注〕
華籠や柄香炉を保持して立列・復座する場合の作法は、「執持法」参照されたい。
行道は、声明を唱えたり散華をしながら、御本尊の周囲を右回り(時計回り)に歩む作法をいう。歩行の仕方は、左‐右‐左と三歩進み、次に右足を半歩出し左足にそろえて立ち止まる。この左‐右‐左‐右の四動作をくり返して行う。 また、声明を唱えずに行う行道を「無言行道」という。
〔注〕
①柄香炉や華籠を保持して行道をはじめる場合は、まず一同が同時に一揖してから、左を向いて行道に移る。
②行道は御本尊の周囲を円を描くように回り、列の中途に角ができないよう注意する。結衆はなるべく速やかに形を作り、各人の間隔の均等を心がける。行道の終わりには、行道開始前の位置にもどる。
③御本尊の前を通過するときは、御本尊の方に向き直って一揖する。華籠を保持している場合は、散華してから一揖する。次に左方向に向きを変え、正面から一歩進んで正面をはずし、行道をつづける。ただし、脇壇前および須弥壇の横を通過するときは一揖しない。
④行道の途中で調声があるときは、御本尊の方に向き直り、同音から一揖して左方向に向きを変え、再び行道をつづける。ただし、経段から動作をはじめて行道する場合は、華籠を保持せず一揖もしない。無量寿経作法における行道中の調声に際しての作法は「声明と役配声明作法」の頁を、また観無量寿経作法・阿弥陀経作法については『勤式集』の記述を参照されたい。
⑤行道中の各人の動作をそろえるため、あらかじめ声明の字句の上で所作を定めておく。無言行道の場合は、奏楽などによって時期を決めるのも一方法である。
散華は、華籠のなかの華葩(けは:花びらをかたどった紙片)をとって、右前方に散らす作法をいう。一般には起立または行道中に行うが、起立せずに座ったまま行う座散華や、華籠を用いないで生花や木の枝を用いて行う枝散華もある。
〔注〕
①起立または行道中に散華を行うときは、右手で華葩をとり、華籠の右前方から散らす。
②座散華を行うときは、華籠を右ひざ横に置いたまま右手で華葩をとり、ひざの右前方へ散らす。礼盤上で座散華を行う場合は、脇卓に華籠を置いたまま左手で華葩をとり、右手に持ちかえて、ひざの右前方へ散らす。
③枝散華を行うときは、華籠を用いず桃・桜などの生花または樒の枝を柄香炉のように持ち、右手で花または葉を摘みとり、右前方へ散らす。
本ページは『浄土真宗本願寺派 法式規範』をもとに、ホームページ用に抜粋し構成したものであるため、凡例・本願寺・大谷本廟・直属寺院の荘厳に関すること、並びに椅子席規範用語解説、口絵、イラストなどについては法式規範を参照ください。