ソフトバンクグループは18日、保有する中国のアリババ集団の株式で1.25兆円の現金を調達したと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大による株価急落と財務悪化に対応するため、4.5兆円の資金を創出する一環だ。当面の資金繰りに問題はないとみられるが、力を入れてきた成長が見込める未上場企業などに投資するファンドビジネスでは投資先企業の価値が急減している。
「現金を手元に持つため、資産を切り売りする」。18日の会見で孫正義会長兼社長は危機対応を優先する考えを示した。
巨額の含み益があるアリババ株は金融派生商品(デリバティブ)を活用して価格変動リスクを抑えつつ一部を現金化した。今後は国内通信子会社ソフトバンクや旧スプリントと合併したTモバイルUSなどを売却対象として検討しているもよう。18日は「色々な選択肢を持ってやっていきたい」と語るにとどめた。
過去の危機と比べ「世界的危機だが、4.5兆円の現金が確実に入るような状態だ」と足元でも28.5兆円分の価値がある株式を持ち、資金面の不安は少ないと強調した。調達資金は約2.5兆円の自社株買いや2兆円の負債削減に充てる。
今期は「コロナ危機の中でより安全運転をする。ゼロ配当もあり得る」と説明するなど、これまでにない守りの姿勢を鮮明にするのは、2020年1~3月期の連結最終損益(国際会計基準)が1兆4381億円の赤字に転落したことがある。
10兆円を運用する「ビジョン・ファンド」は88社の投資先の約6割、50社の企業価値が下がり、年間で1.8兆円の投資損失が出た。孫氏は「ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)がコロナの谷に落ちている」と表現した。
投資の約4割を占める「交通・物流」は外出禁止でライドシェアの需要が急減。米ウーバーテクノロジーズなど、同分野は3月末時点で43億ドル(約4600億円)の含み損となった。53億ドルの含み損となった不動産では、米シェアオフィス大手ウィーカンパニーが世界の主要都市でオフィス閉鎖を迫られた。
けん引役だった「消費者向けサービス」の含み益は13億ドルと19年末比で7割減った。インドの格安ホテル大手OYO(オヨ)はコロナ禍で稼働率が急落し、大幅値引きで医療用などに提供する。
上場投資先ではビジネスツールの米スラック・テクノロジーズの足元の株価が急落前を1割以上上回り、ウーバーも急落前の水準をほぼ回復した。ただ未公開株も多く、今後も「どちらかというと評価益よりも評価損が出る可能性が大きい」と慎重だ。消費回復には時間がかかるとみられ、「(投資先のうち)15社程度は倒産するのではないか」との見通しを示す。
一方で「15社が崖から飛び上がって成長する」との期待もみせた。新型コロナによる社会様式の変化で、会議や教育のオンライン化、動画配信サービスなどには可能性があるとの見方だ。
実際に中国・北京字節跳動科技(バイトダンス)が1万人規模の新規採用に乗り出すなど好調な投資先もある。ウーバーもライドシェアの苦戦で従業員削減を決めたが、料理の宅配サービスは伸びており、同業の買収にも乗り出している。
ソフトバンクGの株価は自社株買い表明もあり、3月の安値からは8割上昇した。ただ自身が「不確実性の時代がくる」という中で、これまでの拡大一辺倒ではなく選択と集中を進めることが回復のカギとなりそうだ。