なぜアニメ「こぴはん」は空前絶後のつまらなさなのか。
いったい何が「こぴはん」を面白くないと思わせているのか。

というわけで、ニコニコ動画で7話まで見ました。
あんまり批判的な感想は書きたくなかったのですが、
たぶん「こぴはん」はある意味歴史に残る作品だと思うので、感想を書きます。

今年のアニメは全部見てる(一話だけ見たのも含めて)はずですが、これはダントツでした。
僕が見てきた中でも5本の指に入るぐらいひどい映像作品(映画、ドラマ、漫画含む)だと思います。

公式かどこかで「まったく新しいアニメに挑戦」みたいなあおりを見たけれど、確かにまったく新しいアニメでした。
どこが新しいかと言えば、アニメなのでキャラは動いているけど、内容がまったく存在しないところです。
世界の設定に何の意味もなければ、キャラが存在する意味もない。
キャラの行動を生み出す目的もない。
作品の方向性――SFなのか、サスペンスか、バトルか、萌えハーレムか――も感じられない。

そのせいで、この作品で何が言いたいのか、何をしたいのか、どう楽しませたいのかわからなくなってます。
たった6分のアニメが30分かと思うぐらい長く感じます。

人間は動いてるものや音がするものがあれば、そこから情報を読み取ろうとします。
これは動物の本能に属するもので、自身に危険が及ばないか判断するため。
鳥の雛が、頭上を影に覆われると動きを止めるのと同じような本能的なものです。

そしてカラフルなアニメなら、なおさら注意して情報を読み取ろうとします。
しかしこの「こぴはん」には何もないです。
面白いストーリーはないし。テーマもない。製作者のメッセージもない。
視聴者を楽しませようという意気込みもまったく感じられません。

かと言って、キャラ販促アニメでもないと思います。
デザイン自体は可愛いけれど、内面や感情がともなわなければ絵なんてただの記号の集積です。
そのためキャラ販促しようと思うなら内面を掘り下げる必要があるのに、
まったく掘り下げてないからです。むしろ投げっぱなし。

ちなみにキャラの個性を引き立たせるためには目標が必要です。
目標を持って自分の意思で行動した時、初めてキャラに血が通います。
逆にどんなに絵を頑張って書いても、声優が演技を頑張っても、
目標がなければそのキャラが生きて呼吸をすることはないです。

あ、でも。目標・目的といってもそんなに大それたものではありません。
大金を稼ぐとか、世界を救うとかなど大掛かりなものでなくても、
テストで百点とってほめられたい、クラスメイトと仲良くなりたい、部活頑張るなどでも構わないのです。
キャラクターが自分から行動する動機になればよいのです。
どんな目的がよいかは作品によっても変わってきますが、目的がないのだけは本当にダメです。

以上を総合すると、視聴者を楽しませようとしておらず、かといって製作者が作りたいものを作っているという独りよがりな作品でもなく、キャラ販促アニメでもない。
なんのために作ったか、本当に首を傾げるアニメです。

映像だけで中身がない作品といえば塚本信也監督の「鉄男」でしょう。
ストーリーなんてあってないようなものです。
けれどこの「鉄男」は、コマ撮り撮影のインパクトを極限にまで追求した作品です。
映画が始まってから終わるまで、その勢いに圧倒され続けます。
鉄男を見ると「映像のインパクトだけでも作品として成立する」というのが嘘じゃないと分かります。
それだけに「こぴはん」は絵がそこそこ綺麗なだけの、中途半端な作品になってると思うのです。

キャラだけの作品と言えば「侵略イカ娘」があります。
けれどイカ娘なんて可愛いだけと思われがちですが、イカ娘は海を汚す人類をこらしめてやるという一貫した目標があるので、他の人間キャラクターとの差別化に繋がっています。作品の方向性も明確になってます。
「こぴはん」は目標がないためストーリーが存在せず、キャラ紹介にもなっていませんでした。

そのほか「フラクタル」というアニメがむごいとよく言われてますが、製作者の意図が明確に提示されているだけ(それがどのような意図であるにせよ)「こぴはん」よりかは数段素晴らしいです。

「こぴはん」を見ていて似ている作品というか行為として思い浮かべたのが、強制収容所で行われた「穴を掘らせて埋めさせて、また掘らせて発狂するまで繰り返させる」という拷問でした。
これが一番似ているかなと思います。
人間誰しも、自分の行為が徒労に終わると、ものすごい疲労を覚えるものなのです。
例えそれが無料で見ているものだとしても。

キャラデザインは綺麗だし、OP曲もいい。すべてがダメだったわけではないです。
それだけに、もっと他に方法があったんじゃないかと疑問に思わざるをえません。
例えば、誰か一人を主人公にして、そいつに目標を持たせて、ストーリーの流れを作りつつ、それぞれのキャラと関係させていくとか。
もしくは全員に共通する事件――例えば学校が爆発――を発生させて、各キャラのリアクションの違いから個性を際立たせる方法なども。モブキャラは校庭へ逃げるだろうけど、主要キャラたちは各自違った行動を取るはずです。避難経路をアナウンスするのか、取り残された子を助けようとするのか、首謀者を取り押さえようとするのか。

でも、よくよく考えてみれば、制作スタッフが一番疲れる思いをしたんじゃないかな……。幾ら仕事とは言え、こんなに何もない物を作らされるなんて。

今現在制作されている映像作品が、読者が見て面白いと感じる上に、作り手も楽しんで作ってるという雰囲気が伝わってくるような、そんな作品でいっぱいになりますように。


追記……この感想を公開するか悩んでいたけれど、製作者側が「わざとつまらないように作った。それが話題になればよかった(意訳)」というような内容のことを言っていたので
キツイ感想こそ望んでいたんだと理解したので、話題の一つとして遠慮なく公開しました。

でもなぁ。
「わけが分からない作品』と言わせたかった。反響は予想通りです」「オチがなかったり、よく分からない感じになっている。そうすることで、見た人が『すっきりしないアニメだね』と引っかかるようにした」
と上記のリンク先で言ってるけど、これってあんまり良くない行為だと思うんですよね。
料理で例えるなら「おいしくないと言わせたかったので、ヘタや根っこの食べられないところを調理しました。反響は予想通りです」ってことだろうし。
次から誰も口にしなくなるんじゃないかと思います。二つの意味で。

アニメ「こぴはん」オープニングテーマ「ループ」

新品価格
¥790から
(2013/2/11 23:04時点)

でも絵とOPはいいですよね。とくにOPは名曲。


終わり。