北海道の鈴木直道知事がこのほどツイッターに、ある動画を公開しました。コップを片手にぐいぐいと飲み干して、ひと言「うまい!」。飲んでいるのは何かというと、牛乳です。「牛乳チャレンジ」と名付けて、牛乳を飲んだ動画をSNSで公開するよう呼びかけました。少しでも消費アップにつなげたいというねらいです。こんなことまでしている背景、そこには今、北海道の酪農が直面する難題がありました。
新型コロナウイルスの影響が…
その難題とは、全国的に牛乳や乳製品の消費が急激に落ち込んでいることがあります。大きな理由は2つ。いずれも新型コロナウイルスが関連しています。1つは、「小中学校の臨時休校」です。休校に伴って、全国で給食の牛乳消費がなくなってしまいました。そして2つめは、「外出の自粛」です。外食の需要が激減することで、業務用の牛乳や乳製品の需要も減っています。また、北海道のお土産やお菓子には生クリームがふんだんに使われていて、外国人観光客の激減でこうした商品の需要も減っています。酪農は北海道の農業産出額でみると、全体の4割を占める最大の部門で重要な存在です。「牛乳チャレンジ」は、そうした中での“窮余の策”ともいえるものでした。
生産は急に止められない!
需要が減っているのなら、生乳の生産を減らせば良いのではと思う方もいるかもしれません。しかし、なかなか難しいのが実情です。その理由を知るために、江別市で酪農を営む川口谷仁さんのもとを訪ねました。川口谷さんの牧場では、1000頭の牛を飼育しています。それぞれの牛から搾乳するのは、毎日3回。川口谷さんは、牛は乳を出さないと病気になってしまうため、止めることはできないと説明してくれました。
酪農業 川口谷さん
「この子たちは機械じゃなくて、生きている動物ですので、この調整というのは非常に難しい。おっぱいがたまってしまって“乳房炎”という病気になってしまいます。そうしますと最悪、命を落とすことになりますので、われわれ酪農家としては、絶対にそういうことはできないですね」
しかも、5月から6月にかけては、北海道の牛にとって気候が快適になって一年の中でもっとも生乳の生産量が増えやすい時期だといいます。川口谷さんは、「これから暑くなってきますと、牛たちも活発に牛乳を出してくれる時期になってきます。必然的にこの時期は増えてきますね」と話していました。
乳製品の加工にも限界が
「つい、この間にはバターが不足していたのだから、保存が利く乳製品にどんどん加工すればよいのでは」という声も聞こえてきそうです。でも、それも限界があります。日持ちがしない飲用牛乳や生クリームの代わりに、チーズやバター、脱脂粉乳など保存期間の長い製品に加工することは、これまでも行ってきました。生産者団体のホクレンが3月に乳業メーカーに販売した量を見ると、牛乳向けがおよそ12%、生クリーム向けが5%あまり減った一方で、脱脂粉乳やバターに回る量は15%以上増加しました。
この結果、何が起こったかというと、脱脂粉乳の過剰在庫です。このペースが続くと乳業メーカーもこれ以上、作れなくなってしまう懸念があるというのです。酪農家からは「こうなってしまうと最悪の場合、生乳の廃棄の可能性も否定できない」という悲観的な声さえ出ています。
国も生産者団体も対策に走る
こうした事態に、北海道の鈴木知事だけでなく、江藤農林水産大臣も、「買い物の際に牛乳やヨーグルトをふだんよりもうひとつ買ってもらえれば、酪農家の生産を守ることになるので協力をお願いしたい」と異例の呼びかけを行いました。加えて、補助金を出して脱脂粉乳を家畜のエサに回すという苦肉の策まで始めています。
また、ホクレンなどの生産者団体も、ホームページやインスタグラムで牛乳をふんだんに使う料理も紹介して、消費拡大を訴えています。
全国的な生乳の生産は、一時は停滞してバター不足を引き起こしました。その後、北海道を中心に回復し、このところは生産量が持ち直してきていました。その矢先の今回の事態に、酪農家の間にも戸惑いが広がっています。それだけに不要不急の外出を控えているこの際、健康にプラスになるのはもちろん、酪農家を助けることにもなると思って、牛乳や乳製品をいつもより少し多くとってみる機会にしてみてはどうでしょうか?
(札幌放送局・小林紀博記者 2020年4月28日放送)