事実上の首相を決める自民党総裁選は、安倍晋三首相が石破茂元幹事長を下して3選を果たした。国会議員票、地方票とも安倍氏が上回ったが、むしろ目立ったのは石破氏の地方票での健闘だ。勝敗の結果が持つ意味は。2人の6年間の闘いとともに考える。 2018年8月21日公開/2018年9月20日更新
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- 安倍晋三
第90代・第96-98代内閣総理大臣
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父は安倍晋太郎元外相、祖父は岸信介元首相。成蹊大卒。1993年に衆院初当選。小泉内閣で自民党幹事長、官房長官。戦後生まれとしては初の首相。63歳。
- 安倍晋三
- 石破茂
自民党元幹事長
父は鳥取県知事や自治相を務めた二朗氏。慶大卒。1986年に衆院初当選。93年に政治改革をめぐり自民党を離党し、97年に復党。防衛相や農水相を歴任した。61歳。
- 石破茂
2012年9月26日、自民党総裁選
安倍が石破を破り、総裁に選出された。
1回目の投票では地方票(300票)で過半数を獲得した石破が1位。
だが、国会議員(198票)のみによる決選投票で安倍が108票を獲得し、89票の石破を逆転した。
安倍は勝利したものの、
地方票で上回った石破を幹事長で処遇せざるをえなかった。
政権奪還、「安倍1強」体制へ
衆院選で民主党を下し、安倍率いる自民党は政権復帰を果たす。翌年夏の参院選圧勝を経て「安倍1強」が確立されてゆく。
- 2012年9月
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安倍総裁誕生
選挙に臨むにあたって力を貸してほしい
地方の声、安倍総裁のもとで生かしていく
- 2012年12月
衆院選で294議席(公示前+176)
- 内閣支持率59%
- 2013年7月
参院選で圧勝(公示前+31)
衆参ねじれを解消
半年前まで100人ほどだった自民党は2度の選挙を経て400人を超す巨大政党に膨れあがる。勢いに乗る政権からはこんな発言も飛び出した。
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(東電福島第一原発の汚染水漏れは)アンダーコントロール2013年9月、五輪招致演説
絶叫戦術はテロ行為と変わらない2013年11月、特定秘密保護法案に反対する市民デモを批判
- 2013年12月
特定秘密保護法成立。衆参で強行採決
安倍、現職首相として靖国神社に参拝
- 2014年5月
内閣人事局を発足。
中央省庁の幹部人事を一元管理
石破幹事長外しの動き
首相として圧倒的な権力を謳歌(おうか)する安倍と、それを支える石破とのズレが目立ち始める。安倍は、翌年に控える自民党総裁選でライバルとなり得る石破を幹事長から外す動きを見せる。
- 2014年7月
集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更を閣議決定
公明党の反発は強い。早まらない方がいい
私が決めること
- 2014年8月
安倍、石破に安全保障法制担当相を打診。
石破は辞退
首相とは安保観に違いがある
ラジオでいきなり(幹事長続投を)求められても困る
- 2014年9月
内閣改造。石破、地方創生担当相を受諾。
石破人脈、党役員から一掃
- 2014年12月
衆院選で自民291議席(公示前-2)
- 2015年9月
安全保障関連法が成立
総裁選無投票、安倍再選
安倍内閣の閣僚として総裁選立候補を見送った石破。だが「次」を見据えて公然と動き始める。
- 2015年9月
石破派、20人で発足
政権をめざしたい
- 2016年7月
参院選で56議席(公示前+6)。
衆参で改憲勢力が3分の2超。
改憲発議可能に
- 2016年8月
内閣改造。石破は入閣を固辞し閣外へ
党内から異論がでないのはおかしい
今後も(石破氏には)協力してもらえると確信
- 2016年9月
安倍の所信表明演説に、自民議員が一斉にスタンディングオベーション
きしむ1強、都議選惨敗
石破は閣外に去った。長期化する「安倍1強」のきしみが、次々と表面化する。
- 2017年2月
森友学園問題の報道
私や妻が関係していれば、間違いなく辞める衆院予算委で
- 2017年3月
自民党大会で、総裁任期を延長して3選を可能にする党則改正
- 2017年5月
加計学園問題の報道
- 2017年6月
「共謀罪」法が成立
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こんな人たちに負けるわけにはいかない東京都議選応援の演説中、聴衆からのヤジに
- 2017年7月
東京都議選で自民が惨敗
防衛相の稲田朋美、日報問題で辞任
- 内閣支持率、33%に急落
- 2017年9月
衆院解散。北朝鮮ミサイル問題と少子高齢化を掲げる
国難突破解散だ
国民が納得するような大義があるかどうか
- 2017年10月
衆院選で自民284議席(公示前±0)
安倍は衆院選の勝利で息を吹き返す。しかし、足もとの問題に再び火がつく。「平成の政治史に残る大きな事件(筆頭副幹事長の小泉進次郎)」「最高責任者が責任を取らないのは問題(元行革相の村上誠一郎)」と党内から批判が噴出する。
- 2018年3月
財務省、公文書書き換えの報道
- 内閣支持率、最低の31%
- 2018年4月
首相秘書官だった柳瀬唯夫が加計学園の獣医学部新設を「本件は、首相案件」と発言したとする愛媛県文書が明らかに
信頼回復に向けて必ず全容解明し、うみを出し切る
首相の「辞める」がすべての始まり。その一言がなければこんなことになっていない
- 2018年5月
安倍の首相連続在任日数が歴代3位(1981日)に
森友・加計学園の問題をめぐり国会で押し込まれる場面が続くなか、政権を支える派閥領袖たちの意向を安倍は無視できなくなっていた。安倍3選への地固めを担ったのも派閥だった。
- 2018年5月
細田派会長の細田博之が安倍3選への期待を表明
- 2018年6月
麻生派が安倍支持を正式表明
- 2018年7月
岸田派会長の岸田文雄が総裁選出馬を見送り、安倍支持を表明
二階派が安倍支持を正式表明
- 2018年8月
石原派が安倍支持を表明
竹下派は自主投票。衆院は安倍支持が中心、参院は石破支持が大勢
- 2018年8月10日
石破が総裁選立候補を表明
「正直で公正」な政治をつくりたい
直面する大きな課題に対応するため、日本の設計図を書き換えねばならない
憲法9条改正には国民の深い理解が必要だ
- 2018年8月12日
安倍が地元・山口で講演
自民党の憲法改正案を次の国会に提出できるよう、とりまとめ加速を
トランプ米大統領とは、なんでも話し合える関係を築いている
- 2018年8月26日
安倍が総裁選立候補を正式表明
あと3年、日本のかじ取りを担う決意だ。どのような国づくりをしていくかが争点
- 2018年9月7日
自民党総裁選告示。安倍、石破が立候補
- 2018年9月10日
北海道地震により3日間の論戦自粛を経て、所見発表と共同記者会見
相手候補について
石破候補は日本を担う、大変有為な人材
(安倍氏は)これで行くと定めて突破していく手法で、織田信長みたいなもの
- 2018年9月14日
日本記者クラブ主催討論会
自衛隊の位置づけ
自衛隊は実力組織、国際法的に軍隊だという政府の立場に石破さんは批判的。総理になったら主張を変えるか
こういう状態が続いていいとは思わない。必要最小限度だから戦力ではないということは、国際的に通用しない
アベノミクス・金融政策
一人ひとりの所得を増やさなければ消費は増えない。金融政策でそうなったか。そうなっていない
異次元緩和をずっとやっていいとは思っていない。いつこの緩和をどうするかは(日銀総裁)黒田さんの判断
社会保障
人生100年時代に備え、70歳を超えても年金の受給開始年齢を選択可能にする仕組みを3年で断行したい
2040年に人口が2千万人減る。今やらねばやらないことに答えを出す
森友・加計問題
私の指示や、妻が関与したことはない。金銭的なものをもらって便宜をはらったわけではない
贈収賄のような犯罪をやってらっしゃるとは思っていない。しかし財務局の職員が命を絶たれたことは真摯に受け止めなければ
総裁選のあり方
総理大臣選びなんだから論戦を多くやって国民に見てもらうのが自民党の責務だ。期間を変えればよかった
補正予算の編成や外交日程をほっといて、党内の党首選びを優先しろとはならない
- 2018年9月19日
最後の訴え
6年前、日本を取り戻す戦いはまさにこの場から始まった。総理の職を突然辞した私にもう一度政治生命を与えていただいたのはまさに皆さんだ秋葉原駅前
46年前に鳥取から東京に出てきて、東急バスで渋谷に来て、東横線で学校に通った。政治家になって意味があったと万感の思いで立っている渋谷ハチ公広場前
- 2018年9月20日
投開票日
皆さまとともに決戦の場に臨みたい。何としても勝利を収め、皆さまとともに新しい国づくりを進めていきたい正午、都内のホテルで開いた必勝出陣の会
自民党のこの戦いはこれで終わらない。来年は統一地方選、参院選。私も全力で全身全霊で、一人ひとりの方にお訴えをする正午、自民党本部で出陣式
派閥ごとの支持は2018年8月時点
2012/9
- 町村派
- 43
- 麻生派
- 12
- 高村派
- 7
- 伊吹派
- 12
- 古賀派
- 32
- 山崎派
- 12
- 額賀派
- 28
- 無派閥
- 53
- 石破派
- 20
2018年9月20日
自民党総裁選投開票
安倍が3選を決めた
553 | 獲得票数 | 254 |
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自民幹部「地方の反乱」3期目、波乱含みのスタート
自民党総裁選は、安倍晋三首相が石破茂・元幹事長を破り、連続3選を果たした。しかし、国会議員票で8割の支持を得ながら、世論に近いとされる全国の党員らの支持が5割半ばにとどまった。首相陣営から聞こえるのは歓声ではなく、驚き、当惑だ。
今回の総裁選では、派閥がこぞって首相支持を表明し、2012年の政権復帰後に進んだ「安倍一色」に染まる党内状況を反映する展開をたどった。首相陣営は当初、党員票でも国会議員票に匹敵する7割以上の得票を目指した。
ところが、7日の告示以降は、「石破氏が6年前に獲得した55%は超えたい」(陣営事務総長の甘利明・元経済再生相)と予防線を張るようになった。6年前の総裁選は安倍、石破両氏を含む5氏による争いだったため、一騎打ちとなった今回とは比較にならない。55%はかなり低めの目標と受け止められたが、結果はその55%をわずかに上回ったに過ぎなかった。
首相陣営からは「ショックだ」「参院選が心配だ」との声が相次ぎ、自民党幹部は「地方の反乱だ」と語った。
8割を超えた国会議員票でも、両陣営ともに50票台とみてきた石破氏が73票を獲得。表向きは首相支持を表明しながら、逆の投票行動を取った議員が複数いることをうかがわせる結果となった。
来年に統一地方選と参院選を控えるなか、首相の評価をめぐる国会議員と党員の意識のズレは、今後の政権運営の大きな不安定要素となり得る。首相が手にした新たな3年間は、波乱含みのスタートとなる。(与党担当キャップ・佐藤徳仁)
敬称略。派閥データは国会便覧に朝日新聞調べ(2012/9・2012/12・2017/7・2018/8)を追加。古賀派は旧谷垣派を含む。谷垣グループは無派閥として扱う。
5つの視点で2人を詳しく知る
- 企画
- 松村愛、円満亮太、鶴岡正寛
- 制作・デザイン
- 内海智裕、小倉誼之、中西鏡子
(朝日新聞メディアプロダクション)