鈴木貞夫(すずき・さだお) 名古屋市立大学大学院医学研究科教授(公衆衛生学分野)
1960年岐阜県生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了(予防医学専攻)、Harvard School of Public Health修士課程修了(疫学方法論専攻)。愛知医科大学講師、Harvard School of Public Health 客員研究員などを経て現職。2006年、日本疫学会奨励賞受賞
疫学的視点から見た新型コロナ問題
4月27日、千葉大学大学院薬学研究院および医学研究院の研究グループからの「十分なPCR検査の実施国では新型コロナの死亡率が低い」という内容の研究がテレビで放送された。「死亡者数を増加させないために陽性率を低下させるようにPCR検査能力を拡大することが急務」と結論付けており、その番組でも賛同するコメントが寄せられ、反論は出なかった。
この結果に対して、疫学の立場から懸念を持っている。この研究は高度な方法で「関連」を見つけ出してはいるが、関連を「因果関係」とする手続きがとられていない。疫学では、関連が認められた時、それを因果関係か否かを判定する検討を行う。例えば、因果関係がなくても同じ関連が出るようなシナリオが書ける場合には、因果関係は基本的には否定される。
今回の関連に対しては、「新型コロナが流行している地域」であれば、PCR検査不足の結果として「検査陽性率は高く」なり、また同じく流行の結果として「新型コロナによる死亡率が高く」なるという考えが成立する。この「流行地域」という共通の原因から生じた2つの結果が関連を持つのは当然とする立場である。
例をあげるなら図3に示したように「アイスクリームが売れると水難事故が増える」という関連があったとする。これは「気温上昇」という原因から「アイスクリームが売れる」、「みんなが泳ぎに行き、水難事故が増える」という2つの結果が生じ、それが関連を持ったという例である。当然のことながら、アイスクリーム販売を禁止しても水難事故は減らない。それと同じ考えで、「PCR検査を増やしても死亡者は減らない」という考え方は成立する。少なくとも因果関係があると主張するなら、このシナリオを超える「死亡者を減らすパスウェイ」について提示をしなければならないと私は考える。
全国の医学部では「関連と因果関係は異なる」ということを教えている。今回の例がどのような意味を持つのか、両論を掲げることなく報道したメディアはこのことに関してどのように考えるのかを問いたい。
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