現時点でタンクに貯蔵されている処理水のほとんどは、前者の「タンク貯蔵基準のみを満たした処理水」であり、環境処理の基準は満たしていません。
これは、まずタンクから発せられる放射線量を低下させ、原発敷地内で働く人たちの無用な被曝を防ぐことを最優先としたためです。長期にわたる廃炉作業を行うにあたり、特に原発事故から間もない時期には、作業員の被曝量を少しでも減らすことが急務でした。
日本では、一人の作業員に許容される被曝限度量は、実効線量で「定められた5年間の平均が20mSvかつ、いかなる1年も50mSvを超えるべきではない」とされています(参考:環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料[平成27年度版])。
この基準値は、科学的には「被曝による健康リスクは十分に低い」とされる数値に設定されています。これはあくまでも作業員の健康と安全をより確実にするための基準であり、少しでも超えると即座に危険だという意味ではありません。
ただし、当然ながら、この基準値に達した作業員は現場から長期間離脱することになります。つまり、現場での被曝量が高いほど作業員を頻繁に交代させる必要が発生し、廃炉作業の大きな障害になったのです。
特に廃炉作業の初期には、タンクに溜められている初期処理水からの被曝も無視できないレベルでした。
そこで、まずは原発の敷地から敷地境界に追加的に放出される線量(自然界にもともとあった線量を除いて、原発施設から新たに放出されて増えたぶんの線量)について、原子力規制委員会が公衆の被曝を抑えるための規制として求める「年間1ミリシーベルト(1mSv/年)未満」を達成させることで、作業員の被曝量も減少させていくことが目標とされました(https://www.meti.go.jp/
実際に、2013年にALPSが本格稼働したことで、敷地境界線の放射線量は2013年度末の9.76mSv/年から、2017年度末には0.90mSv/年まで劇的に低下し、目標を達成しています。
つまり、「タンクに溜められている処理水は元々、敷地での作業員の被曝量を減らすことを最優先として処理を施されたもので、そのまま海洋に放出することは想定していない」のです。そして前述の通り、この不完全な処理水も、最終的には世界で日常的に行われているのと同様の環境処理ができる水準まで、無害化することが十分に可能です。