原発「処理水」を、なぜマスコミは「汚染水」と呼び続けたのか

「科学を振りかざすな」に対する違和感

「海洋放出」をめぐる議論

前環境大臣の原田義昭氏が大臣退任直前の9月10日に、増え続ける東電福島第一原発の処理水について「海洋放出しか方法がないというのが私の印象だ」などと述べたことに対し、新しく就任した小泉進次郎環境大臣が「おわび」をしたことが、大きく報道されました。

小泉大臣は「(環境省は処理水対応の)所管外」とした上で、「福島のさまざまな方がこれ以上傷つくことのない議論をしていただきたいと切に願っている」「福島の漁業の再生などに努力されてきた方々のご苦労をさらに大きくしてしまうようなことがあったとしたら、大変申し訳ないことだと思う」などと述べたとも伝えられています。

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こうした問題は従来であれば、このような福島への「寄り添い」と「陳謝」によって立ち消えになることがほとんどでした。ところが、今回は意外な展開を迎えることになります。

9月17日の報道によると、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)が、環境被害が生じないという国の確認を条件に、有害放射性物質を除去した処理水の大阪湾での海洋放出に応じる考えを示しました。

会見の動画を確認してみると、松井市長は「世界中でさまざまな処理水は海洋放出されています」「まずは政府が、環境大臣が国民の皆さんに丁寧に説明して処理する決断をすべきだ。これをやることが政治家の仕事だ」「科学が風評に負けるようなことになったらダメだ」と発言しています。

また、これに呼応する形で大阪府知事の吉村洋文氏や、前大阪市長の橋下徹氏も松井大阪市長の主張に賛同しています。

もちろん、福島に暮らす190万人近い県民の中には、これらの発言に反発を感じた人も少なくないでしょう。ただ一方で、歓迎する声も同時にあがっていたことはあまり伝えられていません。

 

たとえば、福島県議会議員の渡辺義信氏は「科学的根拠を無視した風評被害を払拭する突破口になるかも知れない」と好意的に評価しています。

処理水の海洋放出をめぐる最新の福島県民世論調査を見ると、反対が38・4%(前回調査からマイナス15・4ポイント)、賛成が30・3%(前回調査からプラス13・2ポイント)となっており、前回調査の1年前から結果が大きく変化していることも注目すべきポイントです。

処理水を海洋放出することは、福島に暮らす人々にとって、様々な意味でさらなる「負担」となるかもしれません。それでも、海洋放出賛成の声が増えているのはなぜでしょうか。

その背景には、福島に暮らす人たちを真に「傷つけて」きたものの存在が見え隠れします。