[13日 ロイター] - ここ数週間、フィリピンのマニラ湾は世界最大の「駐船場」になっている。停泊しているのは大量のクルーズ船。客は一人も乗っていない。
船の数は20隻以上、その総重量は200万トンにもなる。客船には総勢5300人以上のフィリピン人スタッフが乗ったまま。再びクルーズ船の仕事にありつけるかわからない中で、新型コロナウイルス制限措置の隔離期間が終わるのを待っている。
新型コロナウイルスの影響で飛行機は減便、渡航は制限された。複数の客船で集団感染が起きたこともあり、クルーズ船業界は事実上の停止状態にある。運航会社は、数百人のクルーを乗せたまま巨大な客船を停泊できる場所を世界中に確保しつつある。
5000件近いウイルス検査をするために客船間を行き交うフィリピンの沿岸警備隊によると、今後も船団の規模は膨らむ予定だという。フィリピンに戻ってきたクルーの隔離期間は14日。これまでに感染が疑われるケースは報告されていない。
フィリピンの国際海事協会のトップを務めるホゼ・アルバ―・カトー氏は、サッカー場を縦に2つ3つつなげたくらいの長さがあるクルーズ船が、大挙してマニラ沖にいることに特に驚きはないと語る。
クルーズ船の乗員はフィリピン国籍が多く、マニラ湾に客船が集結するのは合理的だという。
カトー氏はロイターに対し、「(1隻につき)乗員の30─40%がフィリピン人だ。ここで待てば、船の所有者はかなりコストを抑えられる」と語った。
クルーたちはロイターの取材に対し、退屈している、寂しい、すぐ近くにある家に帰れないことに苛立ちが募ると明かしたが、それでも快適な部屋で過ごせることを幸運に思っていると語った。ほかの場所で隔離期間を過ごすフィリピン人帰国者が、もっと過酷な環境に置かれていることを知っているからだ。
航海中なら自分が掃除する部屋で寝泊まりしているマイケルさんは、「みんなそれぞれスイートルームをあてがわれているんだ。まるでお客さんになったみたいだよ」とおどけてみせた。
ビデオチャットで取材に応じたマイケルさんは、「ここにいる方が安全だと感じる。清潔さと衛生において、クルーズ船の基準は高い」と語った。
<世界各地の状況>
船舶の位置を追跡する「マリントラフィック」のデータを見ると、5月8日の時点で378隻のクルーズ船が確認できる。移動中の客船もあるが、多くはカリブ海、地中海、大西洋や南シナ海に集団で停泊している。
米疾病対策センター(CDC)の勧告により、米国では7月24日までクルーズ船の運航が禁止されている。これにより、米国沿岸にはクルーが乗ったままの船が複数係留されている。
マリントラフィックのデータを見ると、バハマ沖では多くのクルーズ船がお互いに近い位置で停泊している。特に大きな集団は、グレート・ハーバー・ケイから西方の沖合にある。
クルーズ船の運航会社は、日帰り旅行の行き先として使うためにバハマの小さな島を複数所有している。
世界で最も多くのクルーズ船が寄港する米フロリダ州ポート・カナベラルでも、集団が確認できる。
クルーの下船を遅らせることに根拠がないわけではない。CDCによると、2月に日本の横浜に長期停泊した「ダイヤモンド・プリンセス」は712人が陽性反応を示した。陽性だった乗客のうち47%は検査時には無症状だったが、最終的には9人が死亡した。
CDCは、条件を満たしたことを明記する書面に運航会社がサインをすれば、症状のみられないクルーを下船させることを許可している。クルーを公共交通機関に乗せることなく、自宅もしくは次の任務地まで送り届けることなどが条件になっている。