鈴木貞夫(すずき・さだお) 名古屋市立大学大学院医学研究科教授(公衆衛生学分野)
1960年岐阜県生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了(予防医学専攻)、Harvard School of Public Health修士課程修了(疫学方法論専攻)。愛知医科大学講師、Harvard School of Public Health 客員研究員などを経て現職。2006年、日本疫学会奨励賞受賞
疫学的視点から見た新型コロナ問題
ここ数日「抗原検査」が話題になっている。不足が叫ばれるPCR検査の前段階に使おうということらしい。報道情報を参考に、PCR検査のみの従来法と抗体検査を導入した新法の流れ図を描くと図5のようになる。検体はPCR検査と同様であるため、診断能力が「検体の質」に依存することも同じであり、実質的な低感度の原因となっている。PCR検査の感度を50%とすると、抗原検査の感度は40%程度と考えるのが妥当であろう。
いい意味も悪い意味も込めて「抗原検査はPCR検査の簡易バージョン」だと思う。よいことは測定そのものが早くできること、悪いことは感度が低いことである。通常、スクリーニングはとにかく「感度の高いもの」を使うのが原則なので、「王道」の使い方はできない。抗原検査の使い方は、注意が必要である。
新法は、抗原検査とPCR検査が二段構えになっている。図5に示した通り、抗原検査で「陰性」だった症例にPCR検査を実施して診断を付けるということである。これは通常のスクリーニングで「陽性」だったものに高次検査を実施するというものとは異なる流れであり、あまり効率的とは思えない。問題なのは陽性率が高くないときで、例えば100人の集団で感染者は10人いたとき、感度40%なら感染者は10人中4人しか見つけられないので、結局PCR検査を96人に実施することになる。結局は100例につき4例節約ができるだけで、抗原検査をやった意味があまりない。
いっそのこと、感度50%(PCR検査)も40%(抗原検査)も変わらない、と割り切って、完全にPCR検査の代替とする方法も一考の価値はあるように思う。私はこちらの割り切った考えの方がむしろしっくりくる。というのは、もともと感度が50%の検査だったので、それが40%に落ちたところであまり変わらないと思う(50%に目をつぶっていた人が40%で目くじらを立てるのはおかしいということ)からである。
この話で欠けているのは「特異度」の扱いである。欠けているということは「不問にしている」ということで、特異度100%が前提の、偽陽性のない話が進行しているという意識は持っていなくてはならない。時々出てくる「無意識の前提」とはこういうことを言っている。抗原検査の特異度についてはきちんとした検証が必要である。これが低いようなら、抗原検査にはご退場願わなければならない。
抗原・PCR検査は現在の感染を見るもので、新型コロナの治療法がない(あるのは対症療法)こともあり、この検査の主目的は「隔離」である。そしてその問題点は「感度が低いから隔離が十分にできない」ということである。それを「検査の数」で補うことはできない。何度も繰り返すが、抗原・PCR検査は感度が低く、そういう検査に頼った戦略は危うい。個々の事例はともかくとして、総論としては、治療は原因ではなく症状に応じてするものと考える。
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