尾道市出身の映画監督大林宣彦さ…
尾道市出身の映画監督大林宣彦さんが、肺がんのため82歳で死去した。遺作となった新作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」は驚くほど奔放な内容らしい▼「キネマ旬報」最新号の特集で知った。舞台は尾道の映画館だ。閉館記念「日本の戦争映画大特集」のオールナイト上映を楽しむ若者3人がスクリーンに入り込み、時間旅行する▼戊辰(ぼしん)戦争から日中戦争、沖縄戦、8月6日の原爆投下前夜の広島へ―。ミュージカルや恋愛劇、活劇もある約3時間もの大作で、映画人生の集大成だという▼大林作品の中でも特に人気が高いのは1980年代の「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道3部作だ。思春期の少年少女の繊細な感情を、坂道や渡船など土地特有の風景を生かして輝かせた。「映像の魔術師」の異名もむべなるかな▼「いかに語るか」を映画の面白さとしていた監督は2011年の東日本大震災で大きく変わる。「生きているうちに語るべきこと、伝えるべきことを、映画という手紙に託そう」と決意したのだ。小学生で敗戦を経験した監督にとってそれこそが反戦だった▼新型コロナウイルスの影響で遺作の公開は延期されている。最後のロケ地に尾道を選んだ覚悟、反戦への強い思い、そして遊び心。死力を尽くした監督の遺言を受け取る機会まで我慢の日々が続く。
(2020年04月20日 07時30分 更新)