中国、四川料理の定番、回鍋肉(ホイコーロー)。日本で言えば「豚の生姜焼き」のような料理で、白いご飯とは最高の相性。
回す鍋と書きますが、鍋をくるくる回すという意味ではなく、鍋に「戻す」という意味です。すなわち下茹でした肉をもう一度鍋に戻し、炒め合わせるのが回鍋肉の定義です。豚バラ肉は下茹ですることでやわらかく仕上がります。
春キャベツの回鍋肉
豚バラ肉(ブロック)…250g程度
ごま油…大さじ1
にんにく…1片
醤油…大さじ2
砂糖…大さじ1
豆板醤…小さじ1
ニラ…半束
キャベツ…1/8個
1.豚バラ肉はたっぷりの水(今回は800ccを使用)に入れて、強火にかける。沸騰してきたら弱火に落とし、30分間煮る。そのまま冷ます。
2.冷めた豚バラ肉(冷蔵庫に入れておくと切りやすい)をなるべく薄切りにする。にんにくはみじん切り、ニラは4cm長さの斜め切りにする。キャベツはざく切りにして、沸騰した湯で2分間茹で、ザルにあげる。
3.フライパンにごま油、薄く切った豚バラ肉を入れ、中火にかける。音がしてきたらにんにくのみじん切りと豆板醤を加え、さらに加熱する。
4.肉の一部分に焼き色がついたら、火を弱め、醤油、砂糖を加えて味をつける。ニラ、キャベツを加えてざっくりと混ぜ、器に盛り付ける。
中国料理の基本は油を媒介にして、味を入れていくこと
定番料理の回鍋肉。日本では「豚肉とキャベツの甘みそ炒め」の場合が多いですが、本場四川省ではキャベツは使わず、葉ニンニクのみで仕上げるのが普通です。キャベツを入れて甘味噌でこってりと仕上げるのは日本独特のスタイル。
今回のレシピは本場流+日本流のオリジナルです。本場の作り方に習い、味付けは豆板醤ベース。手に入りにくい葉ニンニクの代わりにニラを使い、キャベツを加えているのは日本流から習いました。
作り方としてはまず豚バラ肉を茹でます。中国では茹でる前に肉を洗いますが、日本の豚は冷蔵(チルド)流通なので、その必要はないでしょう。
豚バラ肉は白い肉=脂肪やコラーゲンの多い部位です。この連載で何度も取り上げていますが、コラーゲンは68℃以上で加熱することでゼラチンに代わります。ゼラチンは水を抱え込むので、水のなかで茹でると、生の肉を焼いたのとは違う食感になります。
ただ、赤い肉の部分はあまり温度が高すぎるとパサパサになってしまいます。そこで、蓋を開けた状態で静かに下茹でするのも重要です。蓋をしなければ気化熱によって表面が冷やされるので、100℃以下の温度で加熱することができるのです。
30分経ったらそのまま冷まします。30分下茹でした肉は歯ごたえがやや残った仕上がりです。やわらかいのが好みの場合は1時間加熱するといいでしょう。この肉は水分に浸かった状態で冷蔵しておけば4~5日は持つので、多めに茹でておき、薄切りにしてにんにく醤油で食べるのもオススメです。茹で汁はスープやみそ汁に使うことができます。
さて、薄切りにした豚バラ肉を鍋で加熱していくと、脂が出てきます。そこに加えるのがにんにくと豆板醤です。豆板醤はそら豆と唐辛子を発酵させた調味料で、この料理には欠かせません。開封後は蓋をしっかりと閉め、冷蔵保存しておけば一年ほど持つので購入してください。
豆板醤を入れると最初に入れたゴマ油と豚バラ肉から出た脂にみるみる色が移るのがわかります。唐辛子の辛味成分や色素は脂溶性(脂に溶ける性質)があるからです。さらに豆板醤の水分を蒸発させ味を凝縮させます。その後、調味料を加えることで脂を媒介にし、味や香りが鍋のなかで渾然一体になります。油脂と調味料で風味を重ねていくテクニックは中国料理の基本原理の一つ。水分を媒介にする日本料理とはこの点が大きく異なります。
豚バラ肉はすでに火が通っているので、火の通し過ぎにだけ注意してください。一部分に焦げ色がつくだけで充分です。鍋で肉を炒めるのは焦げ色をつけるためではなく、脂を引き出すため。加熱しすぎると硬くなってしまいます。
最後に加えるニラとキャベツも加熱しすぎは厳禁です。熱い調味料を絡めるだけの感覚で料理するとうまくいきます。お皿に盛り付けると色のついた油が周りに浮いてきます。この油が風味の元です。
中国料理は強い火力が必要と思われがちですが、実際には高温が必要な料理は一部分。多くは家庭の台所でも充分美味しく作ることができます。これから暑くなる季節、刺激的な料理を取り入れて、食卓に変化をつけましょう。