
【ジュネーブ=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長は14日、任期満了を待たずに8月末で辞任すると表明した。米中貿易摩擦などを背景に近年、WTOは機能不全に陥っているとの批判が高まっており、アゼベド氏は苦しい立場に追い込まれていた。トップ辞任を受け加盟国は早急に後任選びに着手する必要がある。
アゼベド氏は同日、加盟国とのテレビ会議で「個人的な決断だ。WTOの最善の利益につながると確信している」と述べた。ブラジル出身の同氏は2013年9月に中南米から初めて事務局長に就任。17年9月から2期目に入り、21年8月末まで任期があった。
新型コロナウイルスの感染拡大で、20年6月に予定されていた閣僚会合は21年の半ばか年末に延期された。アゼベド氏は閣僚会合の準備と次の事務局長の選考プロセスが重なるのは良くないと判断し、決断に至ったと説明した。
「自由貿易の番人」とよばれたWTOは、円滑な貿易ルールの制定や、国どうしの貿易紛争の解決など重要な役割を担う。しかしトランプ米大統領はWTOの貿易紛争の処理機能に不満を募らせ、特に中国が途上国として扱われ貿易の優遇策を受けていることを批判してきた。
米国がWTOの最高裁に相当する上級委員会のメンバーの補充を拒否。19年末以降、重要な柱である紛争処理機能が停止する混乱が続いていた。
トランプ氏は20年1月の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、WTO改革について「非常に劇的なことを実行する」と強調した。しかしその後も先進国と途上国との意見の違いなどから具体策は見いだせていない。世界的に新型コロナが広がってからは、WTOの活動自体が止まっている。