田原: そういえば以前、石原慎太郎が横田基地の返還と日米での共同使用を訴えていたことがあった。結局うまくいかなかったけど、なんでダメだったんだろう?
矢部: 外務省がまったく協力してくれなかったと石原さんは記者会見で言っていましたけど、合同委員会の実態を見ると、外務省が交渉してどうこうなるっていう話ではないんですよね。要するに、合同委員会で米軍側が決めたら、日本側はそれを聞き入れるしかないという関係なんですよ。
田原: 実は、森本(敏)さん(元防衛大臣)に、矢部さんの本に合同委員会のことが書いてあるよと伝えたところ、彼は知っていたんです。「自分も合同委員会に出たことある」と。そこで、「なんでこんなもの変えないんだ」と尋ねると、森本さんは「それを変えようという意見がどこからも出てこないんだ」と言っていた。
矢部: 合同委員会には本会議の他に、30以上の分科委員会があるんですが、森本さんは自衛隊から外務省北米局日米安保課に出向していた時期があるから、そのころ出ていたのかもしれませんね。
ちなみに合同委員会のアメリカ側のメンバーには、一人だけ外交官がいます。それはアメリカの大使館の公使で、つまりアメリカ大使館のナンバー2なのですが、これまでの何人かはものすごく批判しています、その体制を。
なぜかと言うと、それは当たり前の話で、本来、日本政府と交渉して、決まったことを軍部に伝えるのが自分たち外交官の仕事なのに、頭越しに軍が全部決めちゃっている。これはおかしいと、ものすごく怒っているんです。
田原: 一番の問題はね、なんで日本側がね、日米地位協定にしても日米合同委員会にしても、それをやめようと言わないのかと。言ってみりゃこれは、日本はまだアメリカに占領されているようなものですよ。独立したのに。
でも、いまの体制を続けたほうが得だと思っているのかな、実は。アメリカの従属国になっていることで、安全なんだと。そのために自衛隊も戦う必要もないし。現に72年間、戦死者は1人も出なかったと。平和だったと。それで、経済は自由にやってりゃいいと。
矢部: とくに冷戦時代は、軍事的にも守ってもらえるし、経済的にも優遇してもらえるし、日本にもすごくメリットがあったんですよね。だから変えられなかったんだと私も思います。
田原: 歴代総理大臣はこれまで、憲法九条を盾に、アメリカの戦争には巻き込まれないようにしてきた。たとえば佐藤(栄作)内閣のときに、アメリカが「ベトナムに来いよ、自衛隊、一緒に戦おう」と。佐藤はそれに対して、「もちろん一緒に戦いたい。ところが、あなたの国が難しい憲法を押しつけたから、行くに行けないじゃないか」と返している。
小泉のときも、ブッシュから「一緒にイラクへ来て戦ってくれ」と求められたので、「行くには行くけれども、あなたの国が難しい憲法を押しつけたから、水汲みにしか行けない」と言って水汲みに行ったの。
その一方で、山崎拓から「憲法改正しよう」と持ちかけられた小泉は2005年、舛添(要一)とか与謝野(馨)、船田(元)らに「新憲法草案」をつくらせるじゃない。
これは2012年の「日本国憲法改正草案」よりよっぽどいいと僕は思っているんだけど、山拓が「さあ、草案をつくったんだから憲法改正を打ち出そう」と小泉に言っても、小泉は「いや、郵政民営化が先だ」と。頭に来た山拓が僕に電話を掛けてきたんです。「小泉の野郎に逃げられた」と。小泉もやっぱり、憲法改正しないで、従属したほうが得だと思ったの。
矢部: 今年8月の内閣改造で沖縄及び北方担当大臣になった江崎鉄磨さんも、就任直後に地位協定を見直すべきだって発言したあと、すぐに引っ込めましたよね。
田原: 日本は「核の傘」の下でアメリカに守ってもらっている。だから、今年7月、国連で採択された核兵器禁止条約に日本は反対したし、条約の交渉会議にも出なかった。アメリカの従属国のままのほうが、安全だと思っているのかな。
矢部: いままではそうでしたけど、今回、北朝鮮のミサイル問題を見てもわかるとおり、核の傘なんて何の意味もありませんし、かえって危険だという状況はありますよね。