矢部: そうです。それで、この密約ですね、在日米軍の基地権は、地位協定の改定された文言の下で、行政協定の時代と変わることなく続くと。
田原: これは、岸信介は知っているわけ?
矢部: もちろん知っています。
田原: 知っていて密約を結んだ。
矢部: その通りです。
田原: 岸が仮に裏があることを承知でやらざるを得なかったとしてね、現在までそれが続いているというのは、その後の総理大臣はどうしているんですか?
矢部: だから、みんな知らないんです、そうした密約を。
田原: なんで知らないんだろう?
矢部: 引き継ぎがないんです、一言でいうと。
田原: 「ない」っていったって……。
矢部: 僕もそれはびっくりしたんですけど。
田原: 官僚も言わないの?
矢部: 官僚も知らないです。なぜかというと、これは、元外務省国際情報局長の孫崎享さんがおっしゃっているんですけど、外務省でしかるべきポストに就いたとしても、ちゃんとした情報がもらえるのは、その地位にいる3年間ぐらいだけだと。その前後のことは、よくわからないというふうに証言しています。
田原: なんで調べようとしないの?
矢部: 密約について日本の外務省には、政権が変わったら引き継がなくていいという悪しき伝統があるんです。
田原: でも、守ってるんでしょう?
矢部: もちろん米軍側に文書があるから、守らざるを得ない。だからこっちは否定するけど、いざとなったら力で押し切ってくれてかまわないという「暗黙の了解」があるわけです。
田原: 話は飛ぶけど、日米合同委員会っていうのがあるんですね。これ、僕は矢部さんの本で初めて知ったんだけど。できたのは……。
矢部: 1952年ですね。日本のエリート官僚と在日米軍の幹部が月に2度ほど、都内の米軍施設(南麻布にあるニューサンノー米軍センター)と外務省で行っている秘密の会議です。
ここで決まったことは国会に報告する義務も外部に公表する必要もなく、何でも実行できる。つまり、合同委員会は、日本の国会よりも憲法よりも上位の存在なのです。
田原: 合同委員会の日本側のトップが外務省の北米局長で、ほかに法務省大臣官房長や防衛省地方協力局長などがいる。一方、アメリカ側のトップは在日米軍司令部の副司令官で、メンバーのほとんどが軍人ですね。1952年にできて、まだ続いているんでしょう?
矢部: 65年間続いているんです。1600回ぐらい。
田原: 続いていることを、総理大臣は知らないわけ?
矢部: 鳩山さんは、合同委員会の存在そのものを知らなかったとおっしゃっています。
田原: 鳩山は民主党だからね。たとえば、中曾根(康弘)や小泉(純一郎)も知らなかったのかな?
矢部: あることは知っていたかもしれませんが、その実態については、知らなかったかもしれません。議事録がほとんどオープンになっていませんから。