政府は全国に発令した緊急事態宣言を三十九県で解除した。月末の期限を待たず前倒しした。自粛が長引き社会経済活動の再開を迫られた形だ。だが、再流行への警戒を怠るわけにはいかない。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止に重点的な対応が必要な十三「特定警戒都道府県」のうち五県と、それ以外の三十四県に対しての宣言が解除された。
解除されなかった地域は感染症の封じ込めに全力を挙げてほしい。解除された地域では感染状況に合わせた感染対策と経済支援策などきめ細かい対応が求められる。自治体の地力が問われる。
基本的対処方針を検討する政府の諮問委員会には今回から、経済分野の人材も加わった。宣言の長期化で、これ以上の行動規制は経済が持たないとの危機感からだろう。感染防止と社会経済活動の両立の実現へ政府は細心の注意を払い、かじ取りをすべきだ。
解除について政府は、感染者数の減少、医療態勢の余力、検査態勢の確保の三つの基準を設け判断した。医療と検査態勢への対応は都道府県の役割が大きい。今のうちに強化を図ってほしい。政府の支援も引き続き必要である。
解除された地域は、これで元の生活に戻れるわけではない。感染が一段落して経済活動を再開した韓国や中国、ドイツなどでは、また感染者が増えている。世界保健機関(WHO)は「ウイルスが消え去ることはないかもしれない」と指摘している。
再流行に備えねばならないが、その際、重要なのはどんな基準でそれを判断し、どの程度の行動規制を求めるのかだ。今回政府は、流行状況によって地域を三分類する考え方を示した。流行リスクを細かく評価する点は理解するが、緊急事態の再指定の基準となる数値を明確に示さなかった。
地域によって感染状況や医療態勢は違うので基準は決めかねるのだろうが、地域ごとの情報提供と合わせ国民が理解しやすい基準を示す努力もすべきた。
解除地域では社会経済活動が再開に転じ生活の見通しを立てようとする人が増える。緩めた行動規制を再び国民に求めることは、最初に宣言を出したとき以上にハードルが上がる。
国民を説得するには政府への信頼が不可欠だが、安倍政権は検察庁法改正案を巡る強引な姿勢に批判が集まっている。政権の不誠実さが感染症対策を阻害する要因になっていることを認識すべきだ。
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