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【社説】

比の放送局弾圧 政権は停止命令撤回を

 フィリピンを代表する放送局「ABS-CBN」が、政府に事業停止を命じられ、電波を止めた。政権に批判的な論調のためとみられるが、権力の監視は報道機関の責務。早期の命令撤回を求める。

 ABS-CBNはテレビ、ラジオのほか雑誌も発行し、一万一千人が働く同国最大手のメディア企業。四十以上の系列局がある。

 二〇一六年に就任したドゥテルテ大統領は、麻薬犯罪撲滅を「戦争」と呼び強権的に対処してきた。司法手続きなしで射殺された容疑者は政府発表で五千人以上、民間集計では一万人を超す。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、首都マニラの封鎖など各地で移動が制限されているが、大統領は「抵抗したら射殺もあり得る」とまたも強硬措置を表明。実際に射殺された人もいたとされる。

 同局は、ニュース番組などでこうした手法を批判的に報じ続け、大統領と対立してきた。辛口報道は、ドゥテルテ氏が麻薬対策を公約した一六年の大統領選期間中から始まっており、大統領は同社に強い反感を抱いていたという。

 今回、放送免許の二十五年間の期限が来た先週、議会が更新を認めず、政府の電気通信委員会(NTC)は放送活動停止を命じた。

 官邸は「コロナ対策で手いっぱい。放送局に圧力をかけている余裕などない」と介入を否定。しかし、非政府組織(NGO)の「国境なき記者団」は「報道の自由を記した憲法の精神を踏みにじった」と停止命令を非難した。

 背景には、ドゥテルテ大統領の高い国民的人気がある。「射殺」政策にもかかわらず、支持率は八割前後で安定。昨年の中間選挙では与党が上下院とも圧勝した。「麻薬対策で、体感治安が改善した」という世論はあるが、民意は射殺を認めているわけではなかろう。

 この政権下では似た問題があった。大統領を批判的に報じ続けたネットメディアの最高経営責任者(CEO)マリア・レッサ氏が昨年「ネット上の中傷などを取り締まる法律違反」容疑などで二度逮捕され、世界編集者フォーラムなど国内外のジャーナリストが抗議の書簡を送った。

 フィリピンでは、マルコス独裁政権が倒れてからドゥテルテ政権の前まで約三十年間、比較的自由な報道が行われ、指導者たちは強権的な報道弾圧には慎重だった。報道機関が「司法手続きのない射殺」を批判するのは当然だ。政権は停止命令をただちに撤回し、報道の自由を保障すべきである。

 

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