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 新型コロナウイルスの影響で、学校の始まりを5カ月遅らせる「9月入学・始業」案が浮上している。積極的に支持する知事もいて、政府は6月上旬をめどに論点を整理する考えだ。

 背景にあるのは、長引く休校による勉学の遅れ、そして経済力や学習環境の違いによる教育格差の拡大への懸念だ。オンライン授業ができている自治体は全国で5%しかなく、「どっさり宿題が出たきりで、学校からほとんど連絡がない」などの不満が各地で聞かれる。

 朝日新聞が全ての都道府県や指定市、県庁所在市など121の自治体を取材したところ、約7割が今月末まで休校を続けると答えた。休校期間は実に3カ月に及ぶ。夏休みを短くして授業時間を確保することを考えているところが多いが、子どもたちが消化不良を起こさないか。教職員の過労も心配だ。

 9月入学にすればこうした問題の解消が期待できるとはいえ、ハードルは高い。たとえば一時的に17カ月分の児童生徒を受け入れる学年が生まれることになるが、その数に見合う教室や教員を確保するのは難しい。加えて「留学しやすくなるのでこの際9月入学に」といった、いわば便乗論への反発も持ち上がり、議論は錯綜(さくそう)している。

 思い起こすべきは、9月入学論が注目される直接の契機になった高校生たちの声だ。授業や友人と過ごす日がどんどん減っていくことに対する痛切な思いが込められたもので、だからこそ多くの人が共鳴した。

 この訴えの原点に立ち返り、授業や学校生活の時間をどうやって取り戻すかという視点から善後策を考えるべきだ。

 9月入学への大変革か、現行制度の維持かの二者択一ではないはずだ。まずは、指導要領によって定められている学習内容を削減できないか、文部科学省が検討する。それにも限界があるというなら、来春の始業時期を遅らせて今年度分の授業時間を確保し、2年間かけて影響を解消する。それくらいの柔軟な対応を考えてはどうか。

 どの子も困惑の中にいるが、とりわけ受験学年の不安は大きい。入試の実施時期などの基本方針を早急に示す必要がある。

 事態の長期化も考え、並行してオンライン学習の環境整備も急ぎたい。在宅勤務の広がりなどからIT関連機器が品薄になっており、準備が思うように進んでいない。必要な機材が子どもたちに速やかに行き渡るよう、政府はメーカーや自治体に働きかけてほしい。

 教育の機会均等は憲法に基づく国の責務だ。非常時でも、いや非常時だからこそ、不公平を放置することは許されない。

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