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.政治  投稿日:2020/5/5

国産戦闘機開発コロナで中止へ

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文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

防衛省、世界水準の国産戦闘機を開発計画。

・技術、費用、価値の面で開発は実現困難。

・新型コロナ禍で国産開発は放棄か。

 

防衛省国産戦闘機の開発を進めようとしている。世界水準のステルス戦闘機を国内開発する。それによりF-2戦闘機を更新する。公式にはその体裁を維持している。

だが、新戦闘機開発の先行きは怪しい。世界水準の戦闘機を本当に開発できるか。開発・調達費用は現実的な範囲に収まるか。F-35との使い分けも成り立つのか。そのような問題がある。

この国産開発はコロナ禍により放棄されるのではないか?

防衛予算で最初に整理されうる事業だからだ。当座の間、国家予算は社会保障が最優先となる。安全保障は圧縮される。特に防衛費のうち装備調達は大幅縮小される。そこにおいて新戦闘機開発は真っ先に中止される内容である。

▲画像 JL-9練習機 本格戦闘機を目指す以上、国産新戦闘機はいずれの面でもF-35よりも高額となる。逆にF-35よりも安価な戦闘機を求めるなら規模や能力を絞る必要がある。例えば中巴製JF-17や台湾で製造されている経国戦闘機であり練習機派生型の中国製JL-9や韓国製FA-50のような機体だ。推力6-8tの軽量戦闘機の開発ないし輸入を目指す必要がある。出典:中国航空工業集団有限公司HP「業務領域」よりJL-9。

 

■ 実現性が乏しい国産開発

日本は世界水準の戦闘機を開発できるのだろうか?

防衛省はF-2後継機について今なお国内開発を方針としている。

だが、目論見通りに作れるかは怪しい。

第1は開発困難である。ステルス戦闘機は米国でも開発に手こずる兵器だ。これはF-35の開発経緯が示すとおり。また露中もいまだに1機種目の実用機を実用化できていない。

経済力、工業力とも凋落著しい日本には手に負えない製品だ。仮に作れても納期も相当に遅延する。その頃には戦闘機としては時代遅れともなりかねない。

第2は費用面での破綻である。開発着手しても中途放棄となる可能性は高い。

手本があるF-2戦闘機開発すら2倍に膨らんだ。F-2は米国製のF-16を模倣再設計した機体だ。それにも関わらず価格は高騰した。開発費は当初見通しの1500億円から3000億円、単価も50億円から100億円となった。

手本もない新戦闘機は3倍以上にも膨らみうる。現状で語られる開発費1.5兆円が5兆円、単価100億円が300億円以上となっても不思議もない。

第3は価値の不存在である。

端的に言えばF-35よりも高価であり低性能の戦闘機となる。その場合は「F-35を買い増したほうがよい」機材となる。つまり製造する意味がない。

価格上昇が2倍でも新戦闘機はF-35よりも高価格だ。F-35各型の日本調達価格は100億~150億円程度だ。新戦闘機の単価100億が倍の200億となるとそれを超える。

それでいて能力はF-35に全く及ばない。日本航空産業と米航空産業の力量は隔絶している。日本はF-35を超える戦闘機を作れない。特にエンジン等の信頼性やレーダほか電子機器への実戦経験適応では全く相手にはならない。

▲画像 C-2輸送機 防衛省の装備調達では防衛産業への配慮が重視される。特に空自の航空機調達はその傾向が強い。輸送機では米製C-17とC-130が選択肢にならないよう要求性能を設定し国産のC-2輸送機を調達した。その結果、大型のC-17と同価格帯でありながら低輸送能力の輸送機が誕生した。 出典:航空自衛隊

 

■ 防衛産業のための国産開発

国産戦闘機開発は実現が厳しいのである。

なお、この結論はほぼ共通認識である。ある程度の事情を知れば「日本は第一線級の戦闘機を作る能力はない」結論に帰着する。これは防衛省や空自の隊員もそうだ。個人ではそう見ている。

だが、防衛省・空自は本格戦闘機を国産開発する方針を崩していない。

これは防衛産業への斟酌である。

本来、装備調達は使命・目標達成への寄与が最優先される。また達成する上では経済性も追求される。

だが、日本の場合は国内防衛産業への配慮が重視される。高性能かつ妥当価格の海外製兵器調達は理屈をつけて回避される。そして性能は及ばず価格は高い兵器を開発する。それが繰り返されるのだ。

特に空自の航空戦力整備はその傾向が強い。航空産業の仕事を作るため新装備を要求する形だ。その結果がF-2戦闘機や各種の国産ミサイル、C-1、C-2の輸送機の開発である。いずれもピント外れの高価格装備の採用となった。

新戦闘機の開発もそれと同じだ。国産戦闘機が必要なのではない。2035年以降に航空産業に仕事を与える必要が先立っての事業なのである。

▲画像 ゆうぐも 登舷礼を実施する「ゆうぐも」。49年度予算で唯一建造された護衛艦である。オイルショック以前には大型のヘリコプター護衛艦と新機関を搭載した新型護衛艦が計画されていたが建造できたのは安価なディーゼル艦1隻であった。 出典:海上自衛隊HP「写真ギャラリー」

 

■ コロナ対策で整理される

この国産戦闘機開発は放棄されるのではないか?

理由はコロナ禍である。日本社会への影響はすでにオイルショックを超えている。1/四半期の予想GDP成長率は-20%である。2/四半期以降もコロナの悪影響は継続する。日本経済は全治3年を超える重傷を負ったのだ。

このため来年度以降の予算では社会保障が重視される。社会不安は高まっている。なによりも国民生活の安定を図らなければならない。

つまり防衛費は圧縮される。社会保障を手篤くするために安全保障を削る形だ。現状では防衛には差し迫った危険はない。

昭和49年予算の前例もある。オイルショック後の狂乱物価対策として「大砲よりバター」となった。防衛費は実質で1割圧縮されている。

その際には新規の防衛装備調達は、ほぼ停止となった。装備購入費用は2割圧縮された。そしてその相当分が45~48年度契約分の引渡・支払に宛てられた結果だ。例えば、49年度予算での艦艇建造は「ゆうぐも」1隻だけとなった。

来年度以降も同様である。人件費以外は圧縮される。調達数削減だけではない。計画単位での先送りや中止もなされる。あるいは契約済の後年度負担の繰延べも模索される。

その状況では国産戦闘機開発は真っ先に中止される事業である。表面上は先送りする形となるかもしれない。だが、いずれ戦闘機更新はF-35買い増しで済ませる形で落着する。

なによりも防衛費圧縮に最好適だからだ。

本来が筋悪の事業である。防衛産業への配慮でしかない。防衛上は国内開発の必要はない。

そして戦闘機更新も差し迫った話ではない。2035年ころと相当に先だ。そのときにF-35を買い増しすれば終わる。

しかも費用節減の効果も大きい。現段階では今後15年で1.5兆円の見積もりである。実際にはその数倍となるだろう。その金額がまるまる不要となるのである。

トップ画像:F-2戦闘機 出典:航空自衛隊HP「主要装備」より

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重