【語り】高山久美子
YouTubeクリエイター くろえさん
「YURIMA GIRL(ユリマガール)のくろえです。きょうの企画は…」
スマートフォンに向かって手話で話す女の子、YouTube(ユーチューブ)に動画を投稿する高校生・くろえさんです。
くろえさんの動画
「はい!YURIMA GIRLのくろえです!
夏コーデ、一週間やりたいと思います!」
大好きなおしゃれについて。
くろえさんの動画
「私は生まれつき、耳の不自由。」
自分が聞こえないこと。
くろえさんの動画
「Twitter。」
10代がよく使う手話。
くろえさんの動画
「だるまさんがにこっ。」
こちらは、ろう者の「読み聞かせ」を再現。
聞こえる人が実はあまり知らない、ろう者の日常をユニークな感覚で切り取った動画が話題に。視聴100万回を超える動画もある、大人気チャンネルになっています。
YouTubeから広がる——くろえさんが作り出す、自由な世界です。
ろう学校、高等部2年生のくろえさん。
くろえさん
「行ってみよう。」
この日は、友達の直佳さんと人気のタピオカのお店に。
店員
「お客様、こちらでお伺い致します。」
慣れた様子で注文を済ませ…。
店員
「抹茶ミルクですね。かしこまりました。」
店員
「ごゆっくりどうぞ。」
店員さんに笑顔を返すと、さっそくSNS用の写真を撮影。
もちろんおいしく、いただきます。
直佳さん
「おいしい!」
こうした“日常”が動画のネタに。
くろえさんの動画
「タピオカです!」
「7店に行きました!持ち帰るの大変でした」
「重かった~」
「出前があったらいいよね~」
そして、くろえさんの“日常”には、自分が“聞こえないこと”が加わります。
くろえさんの動画
(ろう学校あるある)
「AちゃんとBちゃんがディズニーの話してる。なんだろう。お?ディズニーにタピオカ?いい情報じゃねえか。マンゴー味?!買うしかないぞこれは。600円なんだ〜。AちゃんとBちゃん情報サンキュー。」
遠いところで話してる人たちの話を見ちゃう
Q.くろえさんの動画は何が好きですか?
直佳さん
「“ろう あるある”ですね。(同じろう者として)すごく共感できると思いました。」
人気を呼ぶきっかけになった動画がこちら。
くろえさんの動画
クロエが小さい時の話です。
「イヤホンをつければ言葉を聞けるようになる」って思ってた。
「イヤホンを買えた!どんな音出るかなぁー。なんの歌にしようかなーー。」
・・・
「って、騒音じゃん。。。。音のない世界で生きるしかないか。。。」
何気ない“あるある”を投稿すると、視聴160万回を超える大ヒットに。
くろえさん
「私の周りには『障害を持っている人はかわいそう』と感じている人が多いんです。だから『差別』とか『かわいそうだ』ということではなくて、『ろう者も楽しく生活できる』ということを表現するのがひとつ。もうひとつは『ろう者が大変なことをいろいろ教えてほしい』という声が多かったので、それを表現しました。」
聞こえる人の「知りたい」の声に応えて、次々に動画を投稿するようになると、ファンがどんどん増えていきました。
最近は苦手な「声」を出してみる動画も。
くろえさんの動画
「くろえです!今日は手話禁止。疲れる。使いたい(手話)。」
くろえさん
「前は聞こえについての動画を出すときは『聞こえないことの大変さ』をたくさん出していました。でも今は、聞こえないことを“ネタ”にして、みんなにおもしろく伝えたいという気持ちが強くなりました。」
コンプレックスや苦手なことも隠さず、みんなとシェアすることで楽しく乗り切ろうというのが、くろえさんのスタイルなのです。
しかし以前のくろえさんは、今のように自分を自由に表現することができない時期があったといいます。
くろえさんの動画
「小6の時は人間関係もいろいろあって学校を休んだ。ズル休みをたくさんしたの。本当に大嫌いだった学校。たまに自分の部屋で泣いてた時もあった。
中学部の時は中1も中2の半年も、中3も不登校したの。ずっと3年間。だから、中学の授業ほぼ受けてない。ほんと、なんで休んだんだろう。ただ学校が嫌いだから?人間関係も関わるのめんどくさくて、いやだったの。
話を聞いてくれてありがとう。」
家族みんな耳が聞こえないデフファミリーで育ったくろえさん。家では伝わる自分の手話が学校では伝わらず、友達とうまく会話ができない時期があったといいます。「あすは行く」と決めても朝になると体調が悪くなり、学校にいけない日が続きました。
くろえさん
「小学部のときはうまく手話で話せませんでした。緊張しやすいのかもしれないけど、慣れた友達相手でも手話がぎこちなくなってしまって、聞き返されることが多かったんです。中学部に入って環境が変わったら、もっと緊張して、言いたいことが言えなくなってしまいました。はっきり言えない性格もあって、手話でうまく言えないことがストレスになって学校を休みがちになりました。」
そんなとき、家で見るようになったのがYouTubeでした。特に好きになったのが、大がかりな実験やドッキリなどの動画です。みんなに合わせるのではなく、自分が楽しいと思ったことを、自分なりのスタイルでやってみる。ルールもタブーもない自由な世界がありました。
くろえさん
「中2くらいのときに、YouTubeを見ました。自分の好きなことや誰も考えないようなことをやって、それで笑わせてくれる。私はそのころ、あまり笑わなかったのに(動画を見て)めずらしく笑ってしまったんです。やってみたいと思っていたら、お父さんに『ためしにやってみれば』と言われてやってみました。好きなことができる。私がそれまで伝えられなかったことが伝えられるYouTubeってすごいと思いました。」
人間関係に疲れていた、くろえさん。カメラを通して思いを伝えることなら今の自分にもできるかも——。投稿してコメントがきて、うれしくなってまた投稿。しだいに自分の心が解放され、素直な気持ちを表せるようになりました。
聞こえる人が時々うらやましいことも、自分の素直な気持ちのひとつ。
くろえさんの動画
「耳が聞こえるようになったら、やってみたいこと。本当にいつも思ってます…。それを紹介したいと思います。レッツゴォお!」
(通訳:は〜い、もしもし〜。わろたあ〜わかる〜)
電話したい。
「本当にやってみたいなあ〜。でも、このままでいいと思います、耳が聞こえなくて。今は楽しいですから〜!バイバイキ〜ン(?)」
くろえさん
「(YouTubeで発信したら)みんなが認めてくれました。それで自分が変わった。はっきり言えるようになった。自分でも変わったと思うし、周りの友達からも『性格が変わったね。明るくなったね』とよく言われます。」
“耳が聞こえたらやりたいことの動画 めちゃおもしろかったわ!”
“先輩 編集すごいですね”
“ありがとう 学校でたくさん話し合おうよ”
寄せられるメッセージが、くろえさんの気持ちをどんどん前向きにしていきました。
くろえさん
「SNSはあまりやっていませんでした。自分の世界、家族、友達だけの狭い世界でした。YouTubeを始めてから人とやりとりすることが増えて、世界が広がりました。アメリカやタイの方もたまにコメントをくれるくらい、いろいろな人が見てくれていて世界が広がったんです。」
この日の撮影は「勉強の様子が見たい」というリクエストに応え、1300の英単語を覚える企画。
くろえさん
「1週間でガチで覚えて、最後に試験をしてみたいと思います。もし無理だったら罰ゲームをやります。罰ゲームは…私がすごく嫌いなチーズを食べたいと思います。」
1日3時間の単語の勉強をすべて撮影。動画にしてみんなに見てもらうことで、より集中できるという目的も…。
くろえさんが英単語を覚えるのは、聞こえる人とは少し違う難しさがあるといいます。
くろえさん
「聞こえる人は、音を聞いて覚えるらしいけど、私は音が聞こえないから『見て書く、見て書く』を繰り返すしかないんです。頭の中で指文字を想像します。
T・R・Y
R・E・M・E・M・B・E・R
F・O・R・G・E・T
M・E・A・N
こういう感じで頭の中で(アルファベットの)指文字が動いています。」
今は高校にも楽しく通いながら、いろんなことに前向きに挑戦できるようになりました。
先生
「(テストの)質問は何が難しかった?」
直佳さん
「最後のところ。」
くろえさん
「そうそう。」
この4月からアメリカ手話も学び始めています。
くろえさん
「あなたはどこに住んでいますか?」
直佳さん
「私は日本に住んでいます。」
くろえさん
「兄弟はいますか?」
直佳さん
「1人弟がいます。」
将来は海外の映画制作会社で仕事がしたいというくろえさん。YouTubeを通して自分を表現し、夢を持つことの楽しさを知ったのです。
くろえさん
「本当に難しいと思うんですけど、大きな夢ですね。遠いけれど、本当のあこがれは“アメリカで仕事をすること”です。」
さて「ガチで英単語を覚えてみせる」企画の結果は…。
くろえさんの動画
「スペコン・100点内、81点。ブロック・40点内、40点。ブロック2・30点内、29点。dog英単語・260点内、200点。
ってことは全部、目標より超えたので、セーフ!!」
みごとクリア!目標に向かって頑張って!くろえさん!