引きこもりや生涯独身者の増加の要因として、「面倒くさい」という核心をつく問題があります。この「面倒くささ」は、人間関係から学校や仕事、恋愛、結婚、生きることまで多くの分野に及びます。
ここでは、最近増加している「いろいろなことが面倒」と感じる人たちの根底にあるものを垣間見たいと思います。
物事に対してさほど「面倒さ」を感じない人からすれば、どうしてそれほど面倒なのか、理解に苦しむところがありますが、面倒さを感じる人からすれば、生活に伴う多くの事柄が面倒で仕方ありません。
いろいろなことが面倒だと感じる人がごく少数ならば特に問題ありません。しかし、その数が何十万人、何百万人、何千万人に及ぶかもしれないことを考えると、それはもう単なる怠け者、やる気のなさといった問題で片付くものではなさそうです。
うつとの関連
「面倒くさい」を精神医学の疾患と関連付けるとき、うつ病ではないかとの疑いが考えられます。実際、このタイプの人の中にも、学校や会社に行けなくなっている、人と接することができなくなっているなど、うつ病のような状態の人は多くいます。
しかし、そのような人たちをよく分析すると、うつ症状はあるものの、うつ病発症以前から面倒くさがる傾向が見られました。
つまり、「いろいろな事柄がおっくうで仕方ない」症状はうつ病のせいではなく、面倒くささゆえに問題をこじらした結果としてうつ病になったということができます。
昔から言われていることですが、うつになりやすい気質として、メランコリー親和型気質が挙げられます。これには、生真面目、誠実、責任感が強い、完璧主義、手抜きできないといった特徴があります。
「面倒くさい」が口癖のようなタイプの人と対照的ではないでしょうか。ですから、面倒くさいタイプとうつ病は本質的に違っています。では、面倒くさがる傾向と関連のありそうな疾患にはどのようなものが考えられますか。
自己愛性パーソナリティ障害との関連
自己愛性パーソナリティ障害の特徴は、誇大した自己愛が特徴で、自分を中心に世界が回っているような思い込みの激しさがあります。
「自己愛性パーソナリティ障害」のカテゴリーで注目していますが、このタイプは、理想化された自己像と現実に大きなギャップがあるとき、大きなダメージを受けます。
現実世界が自分の思い通りにならないと悟ったとき、すべてのことが無意味に思え、現実を放棄したように無為に暮らすことがあります。
理想が高すぎるために、それなりの才能や能力があったとしても、それらを活かしてほどほどに満足することができません。結果として、理想と程遠い日常生活に意義を持てず、面倒くささを感じてしまいます。
境界性パーソナリティ障害との関連
「境界性パーソナリティ障害」は、自己愛性パーソナリティ障害と対照的な状態で、自己愛が過小評価されたものです。アイディンティティが確立されておらず、自分の存在や生きていること自体に意義や価値を見出しにくい障害です。
「自分は誰からも愛されない」という刷り込まれた精神状態は、虚しさや絶望を招き、人生におけるチャンスや可能性さえ否定し、何もかも投げ出したくなるような面倒くささにつながっています。
回避性パーソナリティ障害との関連
「回避性パーソナリティ障害」は、まだ認知度が低いものの、世の中の煩わしさから逃れたいという願望があり、責任を負うことを回避しようとします。傷つくことを恐れ、自信がないゆえに社会との関わりや親密な人間関係を避ける傾向があります。
多くの「面倒くさい」という発言の裏側にはこうした心理があり、生きることに伴う苦痛や面倒なことから逃れようとする性質はこの障害とも深く関係しています。