とはいえ、誤解してはならないのは、こうした非難の矛先は中国共産党指導部であり、中国人ではないという点だろう。むしろ、かねてより中国国民の間でくすぶっていた党指導部への不信と不満が、コロナ危機をきっかけに爆発しつつあるからだ。

 昨年12月30日に原因不明の肺炎に警鐘を鳴らしたものの、今年の1月1日に「デマを流した」として武漢の公安当局から摘発された李文亮医師を覚えているだろうか。中国のネットユーザーは国家による言論弾圧に激しく反発し、その怒りは2月7日の李医師の感染死によって頂点に達した。中国国民も、市当局や共産党執行部が李医師の忠告に従わなかったことが、事態の悪化を招いた原因だと信じているのだ。

 中国問題グローバル研究所所長で、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏も、こう記している。
<人類を滅亡の危機にまで追い込んでいるのは習近平の保身であり、WHOのテドロス事務局長の習近平への忖度だ。>
(「志村さん訃報で広がる中国非難の中、厚労省の『悪いのは人ではなくウイルス』は正しいのか」ヤフー個人 3月31日配信)

 アメリカ、フランス、イギリスが厳しい態度で臨むのも、こうした不正を見過ごせば、世界の秩序が失われるという危機感を抱いているからなのだろう。

◆コロナ終息でも、中国政府への怒りは終息しない?

 いまでこそ、各国は国境を封鎖し、ヒトとモノの動きを止めている。全世界が鎖国のような状態だ。
 だが、事態の収拾にある程度の目途がついたとき、世界はかつてない強固さで結びつくかもしれない。ただし、その原動力は、かつてないほどに激しい憤りである。

 現在、中国は世界に先駆けてコロナ終息を宣言し、通常の経済活動を再開させつつある。だが、果たしてそれがすなわち勝利と呼べるのかは疑わしい。
 本当に、来年オリンピックは開催されるのだろうか?

<文/石黒隆之>