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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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鳳凰の地

 さて、そろそろ鳳凰へ挑むメンバーの選定も終わるな。

 明日には鳳凰の封印された地へ出兵する事になるだろう。

 勇者とその仲間、ラフタリアとフィーロは鉄板としてフォウル、アトラ、サディナ、キール、そして村の奴隷共と魔物共の立候補者を連れて行く。


 イミアとか製造をメインにしている奴は留守番だ。

 無理強いは絶対にさせる訳にはいかないから、再三に亘って注意はし続けた。


「波は遊びじゃないんだからな。俺だってお前等を守れる確信が無い。死ぬ気で生きて帰る覚悟の無い奴は参加するな!」


 俺の言葉がちゃんと届いた事を祈るしかない。

 そう……出来れば最小限の被害で波を乗り越えたいと思っている。

 奴隷共はみんな頷いていたけれど、本当に理解しているのか……。


 ああ、そうそう。

 鳳凰の封印された地へ勇者の誰かがポータルをとって、勇者全員で連れて行くと言う方法も考えはしたが、面倒過ぎるので却下した。

 四人もいれば一回の転送でそれなりの人数を飛ばせるが……なぁ?


 連合軍を含め、メルロマルクの兵士だけでどれだけの人数がいると思ってんだ。

 そりゃあ俺の所の奴隷で対処できるかもしれないが、万全の準備で挑むべきだろ。

 と言う事で、俺の所のフィロリアル総出で奴隷共や兵士共を連れて行く事になった。


「では私達も同行しましょう」


 女王は連合軍の首脳陣として、同行する事になった。

 城の方はメルティに任せているそうだ。護衛は女騎士に任せている。

 国の戦力を全部使う訳にもいかないし、護衛としては信頼できるだろう。

 メルティと女騎士って性格的に相性良さそうだし、問題は無さそうだ。


 尚本人は、波に参加出来なくて悔しそうにしていた。

 それなりの腕前だし、勿体無くはあるが。

 まあ、ラフタリアに後は任せると握手してたけど。


 一応、女王の馬車にはクズも一緒にいる。

 ……馬車の中でじっとしているクズは、前よりも老けて見えた。

 そりゃあ大事にしていた娘が死んだ訳だし、老けもするか?

 しかも妹の生き写しらしいアトラが憎い俺の配下に居たら、やるせなくなるだろうし。


 未だに俺を睨む表情は強いが、アトラが俺の隣に立っていると途端に静かになる。

 まあ、そんな馬車の旅だ。


「えへへーいいでしょー」


 フィーロが連合軍の馬車を引くフィロリアルに自慢を続けているのが若干ウザい。

 フィロリアル共もなんか、羨ましそうにしていると言うか……ってそんなのは良いんだよ。

 ドラゴンが引く馬車と若干勝負をさせると言う方法で、連合軍の馬車もある程度の速度を維持していた。

 そう言う方法もあるんだな。


「キュア!」


 子ガエリオンが馬車をフィーロと同じく楽しそうに引いていて、フィーロと良い勝負をしていたのは……同乗者の乗り物酔いと言う良い思い出になったな。


「ラフー」


 大型ラフ種共も一緒に連れてきた。

 ミー君とやらも波に参加したいそうだ。ラトが機材片手に付いて来ている。

 ちなみに元キャタピランドの魔物も馬車を引く作業を手伝っている。


 連合軍の連中の視線が痛い。

 さすが盾の勇者様! 新種の魔物を創造するなんてやる事が凄い!

 とか……道中囁かれているけど、それは俺の黒歴史と言うか、俺じゃない何かの蛮行の結果だ。

 称賛されても全然嬉しくもなんともない。


 と、なんだかんだで馬車の旅を数日……俺達は鳳凰が封印された地へと到着した。



「ここが鳳凰の封印されている地か……」


 俺達が辿り着いた国は……言っては何だが辺境の小国と言うのがピッタリと来る国だった。

 なんとなく中華風の衣装を着た連中が城下町に居る。

 ただ、屋根が低いな。西洋風のメルロマルクとはかなり趣が違う。


 霊亀の上にあった町とも何か違うような気がする。

 時代なのか? どうも東洋ファンタジーは詳しくないからよくわからないな。

 どっちにしろ中華風で良いか。


「こちらが私達の国で言う所の城ですよ。イワタニ様」


 女王が俺達の先を歩きながら、城下町を案内して行く。

 別に詳しくなさそうだから良いような気もするが……。


「なんか、人が疎らだな」


 そう、なんと言うのだろうか。この城下町、人がまばらで広さの割に閑散としている。

 寂れた町みたいな感じだ。

 ここに城があると言われても首を傾げる。


「三ヶ月ほど前から、ここに眠る鳳凰が目覚めると騒ぎになって住民が逃亡をしたようですよ」

「そりゃあ……」


 まあ、霊亀の封印された地の被害を考えたら、我先に国から逃げ出すか。

 風の噂でも相当な被害を出したと有名になれば、そんなもんだろうし。


「「……」」


 錬が静かに俯いている。

 まだ気にしているのか。今度はさせなきゃ良いだけだろ。

 元康に至っては、キョロキョロと辺りを見渡しているだけだ。

 お前は反省しているのか?

 樹は、淡々とリーシアに付いて来ているだけだし。


「……頑張ります」


 ポツリと樹は呟く。

 コイツは呪いが解除されたのかどうもよくわかっていないんだよな。

 呪いは解けているはずだが、どうも感情が薄いというか。


「それで? この国の首脳陣と話でもするのか?」

「そうですね。一応は代表と話をする事になります」

「ふーん……」


 と、女王に案内されて辿り着いた部屋には一人の幼い少年が玉座に座っていた。

 コイツが代表?


「よくおいでなさいました。四聖の勇者様とメルロマルクの女王様。私がこの国の王でございます」

「おや? 私が知るこの国の王とは異なりますね。どうしました?」

「先代の王は国の宝を持って、部下を連れ何処かへと旅立ってしまいました」


 俺は深いため息をした。

 またか……どうしてこの世界の王族はどれも腐った奴しかいないんだよ。

 鳳凰の戦いに巻き込まれたくないと逃げ出したとかどんだけ腐ってんだ。


「わかりました。では貴方が代表でよろしいのですね」

「一応はそうなります。現在、我が国の兵士総出で逃亡した先代国王を捕まえようとしている最中です」

「なあ、女王」

「何でしょうか?」

「この世界の王族ってなんでこうも……」

「フォーブレイから有能な者の血を継いでいるはずなのに、非常時にはこの始末……頭を上げる事が出来ないです」


 いやー……フォーブレイからの血を入れたから腐ったんじゃね?

 とは思うが、目の前のガキは年齢の割にしっかりしていそうだ。

 メルティみたいなタイプなのかも。

 少なくとも全員で逃げ出したよりはマシか。


「私達は四聖の勇者様と連合軍の方々を歓迎いたします。そして前もって提案されていた通り、鳳凰に関する資料を調査いたしましたので、目を通すようお願いいたします」


 と、少年は手を鳴らすと影と一緒に学者がやって来て、俺達を案内する。


「では連合軍は城下町とその近隣で待機させていただきます」

「はい……」


 何やら少年の表情が暗い。

 そういや、この辺りの土地は荒野が続いていた。

 見る限り、住民もやせ細っていたな。

 ああ、そういや世界単位で飢饉があるんだったか。

 俺の所はバイオプラントがあるから気にしてなかったけど……食い物の確保が出来てないんだな。


「影」

「なんでしょう?」


 ……俺の知る影じゃないな。

 とりあえず影を手招きで呼んで、ポケットからバイオプラントの種をバラバラと手渡す。


「しばらく滞在する事になる。それをどっかに植えて食料確保をしろ。ついでにこの国の食料庫を満たしておけ」

「承知」


 俺の行動に女王が深々と頭を下げる。

 同時に少年も一礼した。


「勇者様の慈悲に感謝いたします」

「飢えで苦しんでいる奴等を放っておくと最終的にこっちが困るんだ」


 まったく……対岸の火事だったが、食料問題はこの辺りには根深いみたいだ。

 遠征の為に持ってきた食料がどれだけ持つか不安だな。


 一応、勇者共にはバイオプラントを改造できるように武器を解放させている。

 問題は……バイオプラントを改造するとあの盾みたいな物が出てしまう危険性があるから注意させているけど。

 俺の見立てでは、どうも勇者の武器にはカルマのような数値があるのではないかと踏んでいる。


 錬達は業がかなりある。だから……下手に弄ると俺の様に暴走する可能性が捨てきれない。

 それでもバイオプラントの種の量産に一役買ってくれるとは思うけど。

 ここで暴走されたらたまったもんじゃないけどさ。


「じゃあ資料を見させてもらおうか」

「はい。こちらです」


 俺たちは謁見を簡潔に終えて鳳凰の資料を集めたと言う所に案内される。

 その前に。


「ラフタリアとフォウル、アトラは連合軍の連中を見ていてくれ」

「既に話はしておりますが?」

「これからも集まってくるんだろ? その受け入れをしていてほしい。何かあったら報告してくれ」

「あ、はい。わかりました」


 どうせ鳳凰の資料を閲覧していても、今のラフタリア達に出番は無い。

 フィーロに至っては、馬車を置く場所の確保や近隣調査を言い渡している。

 だから既にここにはいない。

 ああ、士気の為に歌わせるのも手だな。人気あるみたいだし。

 そういうアニメがあったが、あれって本当に効果あるんだろうか。

 とか考えながら行くんだけど。


「尚文様」

「なんだ?」

「何かあったらすぐにお呼びください」

「ああ、わかった」


 別に何かあるはずもないだろう。

 とは思いつつ、俺はアトラに返事をして鳳凰の資料を閲覧しに行った。

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