集・壁・玉
そうして波に備えたLv上げを繰り返し、武器屋の親父にラフタリアの剣を作ってもらい、イミアの叔父にフィーロの爪を作らせたのを受け取って、尚一層Lv上げに励んだ。
その所為か、俺のLvも105まで上がった。
ラフタリアとフィーロも100で止まり、準備は万端だ。
他、錬、元康、樹とその周りにいる連中のLvもかなり高いラインにまで到達した。
特に勇者共は115前後まで上げていて、中々の強さにまで成長している。
ああ、リーシアはあの不思議武器の影響かよくわからないけれどLvの限界を突破して、俺と同じ105だ。
でー……だ。問題はアトラとフォウルに関してなのだが。
ここでアトラとフォウルに関して再確認しようと思う。
アトラはなんだかんだで連日、俺と添い寝したいが為に警備の厳重な俺の家周辺を正面突破するべく戦っている。
それをラフタリアやフォウル、ラフ種、フィロリアル共が邪魔したりとしてきたのだけど。
一つ思い出してほしい。
アトラは天才タイプなのだ。
人が一経験する所を十も二十も経験し成長していく。
「あと少し!」
「残念だが」
「尚文さんの睡眠の邪魔をさせてはいけないと言われているので……」
今では俺の家の前にまで到達するほどの実力を秘め、錬や樹が出動して辛うじて止められると言う猛者にまで成長してしまった。
と言うのを、遠征の数日前に錬達に相談された。
「正直、村の子の中で一番成長しているのはあのアトラって子だと思う」
「はい」
「そうか」
鳳凰との戦いが迫っているのもあり、訓練の回数が増えてきた。
当然ラフタリア、フィーロ、フォウル、アトラと組み手をする事があるんだが、確かにアトラの動きが格段に鋭くなってきている。
しかも俺の防御方法を学び、気の扱いに関して共に研究までしている始末だ。
あの変幻無双流のババアも、防御系の技能と言うのは失伝していて無いらしく、しょうがないのでアトラと俺が協力して一から作り出した。
名前は仮で付けた物だが『集』『壁』『玉』と言う技を作った。
まず『集』
これは魔法的な攻撃、例えば火の魔法を気の力で軌道を捻じ曲げてこちらに引き寄せる技だ。
魔法攻撃の矢面に立つ時に便利だ。
範囲は半径3メートル。
もちろん、気を更に展開させればその限りでは無い。
次に『壁』
これは気で見えない壁を数秒作って、相手の動きを妨害する技だ。
疑似的にエアストシールドを使うみたいな感じだな。
通常攻撃は元より、魔法攻撃も止める事が出来る。
長所はスキルと違って汎用性があるのと、広げようと思えば範囲をかなり大きくできる所か。
短所は防御力と効果時間だな。
最後は『玉』
これはカウンター技だ。
魔法攻撃を気で集めて凝縮し、相手に投げつける。
もちろん、投げ返せない魔法と言う物があるし、そこまで万能じゃないけどな。
俺の盾で魔法を跳ね返したのと近い原理だ。
これ等をアトラは使いこなす事ができる。
当然、防御特化の俺を基準に編み出した技なので、アトラは使い方を流す方向で応用しているが。
「動きは読めないし、早い。しかも攻撃が命中したかと思うと即座に逸らされてダメージが全然入らない」
「それでありながらあっちの攻撃は防御無視攻撃を当たり前のようにしてきて、対処が難しいです」
「一応は、どうにかなっているんだろう?」
「まあな。ただ、一対一で戦ったら、本気で行かないとダメだろうな」
「大怪我をさせずに止めると言うのが難しいです」
最大強化している勇者の本気で行かないとダメって、どれだけ成長しているんだよ。
まあ、村の連中を殺す訳にはいかないから勇者共も加減しているからこそ、苦戦するんだろうけどさ。
「フォウル君が止めて下さるから辛うじてどうにか出来ますが、さすがは亜人の中でも最強の一角と言われるハクコですね」
樹が淡々と話す。
お前の言い方だとそこまで強く聞こえないぞ。
それにしても、そのアトラを止めるフォウルも大概だな。
「ああ、追い付くのがやっとだ。とても素早い」
ちなみにフォウルのLvが110でアトラは103だ。
どんだけ頂上決戦を村でしている訳?
で、アトラは常に多数と戦っているからかLvとかの意味では無い実戦の経験値が果てしない。
昼間も同様に天才タイプのフィーロやサディナ相手に稽古をしているから更に強くなっているとか。
「そんなに強いかね?」
昼間にアトラと稽古した限りじゃ、俺は攻撃を受けきれるのだが。
まあ、あいつが俺相手に手を抜いている、とかだったらぐうの音も出ないが。
今度本気で来い、とか言ってみるか?
それでボコボコにされたら話にならないが。
「尚文は防御しかしないから隙が出来辛いんだろう。俺達は攻撃をしなきゃいけないからなぁ」
「そんな事を言われるのは初めてだぞ。なんだかんだで受け止めるのだって大変なんだからな。というか、攻撃できないよりはマシだろ」
「まあ、そうなのだけどさ」
防御は楽だ。なんて言う奴がいるけれど、実際そんな事はない。
相手の攻撃のインパクトをずらして受け止めたり、受け流したりしなきゃいけないのだから、並大抵の事では無理だ。
しかも俺は相手の武器を破壊するための防御をするなどの工夫をすることでパーティーに貢献する。
白羽取りや武器掴み、矢掴みなどを行うのだ。
魔法に関してだって同様に妨害を試みたり、仲間の援護をするのは俺の役目だしな。
というか、それしか出来ない。
しょうがないだろ。攻撃力が無いんだから。
ともあれ、アトラだ。
アトラみたいに早い奴はフェイントを混ぜて俺の防御を突破しようとしてくる。
だから、その度に対応して行くが、そこまでの速度では無いと思う。
加減しているのか?
「確かに尚文は受け止めるのが上手だもんな。アトラの速度に追い付けているのかもしれない」
「慣れだろ」
「まあ……そうなんだがな。やはり戦うために生まれたって言うふれこみに偽りは無いな」
「そうか? フィーロやラフ種の連中と組み手してみればどうってことないだろ」
速さにおいてはアトラと双璧を成すのがフィーロだ。
アイツはとにかく素早くて攻撃が重たい。
しかも魔法で加速してくるからアトラよりも厄介だ。
ラフ種はフィロリアル程早くは無いけど、ラフタリアと同じく幻影魔法が使える。
下手に気を抜くと幻を見せられて防御ががら空きになるから厄介だ。
それでいて、あの数だからな……。
「フィーロちゃんは的が大きいから当てれるが、アトラは小柄だから当て辛いんだよ」
「はい」
小さい、か。
確かにアトラはLvが103になっても成長しないな。
理由はわからないが、過去の病気とかが原因だったりするんだろうか。
それにしても的の大きさか。
言われて見ればフィーロは大きい。
防ぐ側だとフィーロの大きさも脅威なんだよな。
当然アトラの小ささも厄介ではあるが。
脅威のタイプが違うって事か。
「ふぇえ……アトラちゃんが日に日に強くなってきて大変なんですよー」
「なるほど……ラフタリアはどうだ?」
「はい。正直、段々と強く、そして鋭くなってきていて厳しいですね」
ふむ。
「あれだけの強さのフォウルとアトラがいるなら鳳凰戦も楽になるんじゃないか?」
「いや、鳳凰戦にアトラは参加しないと思うぞ」
「なんでだ?」
錬が不思議そうに尋ねてきた。
「フォウルと約束しているからな。鳳凰との戦いには参加させないって。だから村の連中の中で立候補者を募っているけどアトラは外してある」
と、俺が言ったのと同時だっただろうか。
後ろでドサッと何かが落ちる音が聞こえた。
振り返るとアトラは手に持っていた、袋を落として、こっちに顔を向けている所だった。
タイミング悪いな。
というか、俺ってこういう状況に遭遇する確率高くないか?
「どうしたんだアトラ?」
「尚文様……私は戦に出して頂けないのですか?」
「そうなるな。お前の兄とそういう約束をした」
「尚文様、私は貴方の盾になると宣言しました。ならば戦場では常に近くにおります!」
「そう言われても、約束したのだからしょうがないだろ。俺は約束は死んでも守ると決めているんだ。ちゃんと約束したのならな」
「お兄様……」
ふらふらとアトラはそのまま歩いて行ってしまった。
なんか不安になるような歩調だったな。
「フォウル君が不安ですので、見てきます」
「俺も」
「僕もです」
「ふぇえ……私も気になります」
うー……む。
アトラの信頼度が低いな。
最初に疑われるのがフォウルを襲いに行く事とか、どんだけ短絡的なんだよ。
どう見ても、そういう雰囲気じゃなかっただろ。
「フォウルは今アトラの部屋に置くアクセサリーの材料を取りに行ってるじゃないか」
ローテーションを組んで定期的に全員休みを入れているが、フォウルは部屋の置物の材料を取りに行った。
休日の事まで口を出したりはしない。
イミアの叔父に何か頼んでいたようだし、ラフタリアにアトラの監視を任せて出かけてしまった。
明日には帰ってくるだろうけど、今日は大丈夫だろ。
「そう言えば、そうでしたね」
「ああ」
「だが、明日には一波乱ありそうだな」
避けては通れない道だ。
さて、フォウルはアトラを止める事ができるかな?
そろそろ遠征の準備をしなくちゃいけない。
一応、準備は万全だ。
勇者共も呪いは解除された。
樹の呪いは性格に関する事以外は支障が無いLvにまで回復している。
俺も連日療養したお陰で憤怒の呪いは完治したし、おかしくなった時起こった呪いも解除出来た。
精々経験値が定期的に失われるのと薬の調合をする時に品質が数段階落ちる程度だ。
村の連中で波に挑みたい、戦いたいと言う立候補者のLvもかなり高いし、魔物共もやる気がある。
良くここまで育てたと俺自身を褒めたい気分だ。
ちなみに、村の奴隷代表はラフタリアを除けばキールが代表だな。
ストッパーとしての役目は無いが、戦闘面では中々の強さだ。
相変わらずクレープの木にへばりついているけどさ。
波に挑むかを聞いたらやる気満々だった。