異獣(北越雪譜)

登録日:2020/05/12 (火曜日) 20:06:42
更新日:2020/05/12 Tue 22:22:59NEW!
所要時間:約 4 分で読めます




江戸時代に書かれた鈴木牧之著『北越雪譜』に登場する謎の生物である。
二編巻之四に「異獣」として収録。

なおこの項目は淫夢ネタを多分に含むので、
興味のないノンケ共はブラウザバックして、ウィキペディアなどで調べて、どうぞ。


鈴木牧之『北越雪譜』二編巻之四挿画























【物語】

甲斐国……じゃなかった越後国でのお話。

魚沼郡堀内(現在の新潟県魚沼市)から十日町(現在の十日町市)までの七里余りにかけて、それはそれは険しい山道があった。
ある時十日町のちぢみ問屋から堀内の問屋に「すげえ白くなってるちぢみをハイ、ヨロシクゥ!」と注文があったので、三浦竹助というガチムチの商人が「おかのした」と届けに行った。

道半ばほど越えたところで、さすがの竹助も「ぬわああああん疲れたもおおおおおん」とへたり込んでしまう。
あたりを見ると七ツ(午後4時)に近かったため、竹助は道端の石に腰をかけ、しばらく休息する事にした。
食事は「焼きおにぎりしかなかったけどいいかな?」

焼きおにぎりを食べながら休憩していた竹助のところに、黒塗りの高級車異様な風体をした野獣がやって来た。
に似ているが猿ではなく、長い白髪は背中まで垂れて、背丈は並の人間よりも高い。顔も猿のように真っ赤で、その眼は大きく、まさに異獣の眼光を放っていた。

普通の人間だったら、こんな異獣が出たら即刻逃げ出すダルルォ!?
だが、竹助は豪胆にも「おい待てい(江戸っ子)*1」と異獣に刃を向けた。

しかしその異獣は竹助を襲おうとはせず、竹助の焼きおにぎりを指差した。
竹助は異獣に気前よく焼きおにぎりを投げて与え、さらに「いいよ、来いよ」と異獣を側に誘い残りの焼きおにぎりも食べさせた。

竹助が異獣に「俺は堀内から十日市へ向かう者だけど……明日も戻りでこ↑こ↓通るから、また食べてかない?」と言って積荷を背負おうとすると、異獣はお礼のつもりなのか、重い積荷を軽々と背負い、先に立って歩き出した。やったぜ。

竹助が後についていくと、異獣は手ぶら同然の驚異的なスピードで野を越え山を越え、一里半ばかり過ぎた池谷村で荷物を下ろし、山へ帰っていった。

「あの速さは、まるで風のようだった(小並感)。たまげたなぁ
竹助が十日町で詳しく語ったその話が、今に言い伝えられている。
かれこれ4、50年ほど前の話だそうだ。



兄ちゃん、焼きおにぎり、ありがとナス
どこかであの異獣の声が聞こえた気がした。



またこんな話もある。
池谷村にちぢみ問屋からの信頼厚い機織りの姉貴がいた。
ある晩姉貴が機織りをしていると、に似た野獣が窓から入ってきた。どうやらこの異獣はノンケのようです

顔は赤くなく、頭髪が長く人より一回り大きい身体。
家には姉貴一人だけだったため、恐ろしさで逃げようとするが、機織りの糸が絡まって逃げられない。
だがその異獣は姉貴そっちのけでかまどの方に向かい、飯櫃を見て欲しそうにしている。

その様を見た姉貴は飯を欲しがる異獣の話を思い出し、飯櫃の中の飯をおにぎりにして食べさせてあげた。
それ以来姉貴が一人になるとその異獣がやって来て、飯を食べては去っていった。

ある時、やんごとなきお方からちぢみの注文が届いたが、姉貴は運悪く生理にかかってしまった。
生理中は機を織れず、姉貴も両親も「オォン!アォン!」と呻き嘆いた。

三日目の夜、家族が留守だったのであの異獣が久々にやってきた。
姉貴が異獣に悩みを語りながら栗おにぎりを与えたところ、いつもはすぐ帰る異獣が姉貴の顔をじっと見つめ、颯爽と走り去っていった。

その時不思議な事が起こった。なんと姉貴を苦しめた生理がピタリと止まったのである!
これ幸いと姉貴は織り物生理だけに精を出し女子だけど、無事ちぢみを全て織ることが出来た。そして父親がちぢみを届け終わると、姉貴の生理もまた再発した。
きっと異獣が姉貴を助けてくれたのだろう。



姉貴、栗おにぎり、ありがとナス
どこかであの異獣の声が聞こえた気がした。



【考察】

鈴木牧之は話の末尾に「和漢三才図会寓類の部に、飛驒美濃あるひは西国の深山にも如件異獣ある事をしるせり。さればいづれの深山にもあるものなるぺし」と記しているが、これは「(やまこ)」の事だろう。
ただし「玃」は「(さとり)」の同類で人の思考を読み取るという獣であり、話の異獣と同類とは言い難い。
また、人間より大きい猿に似た怪物として、アメリカのUMA「ビッグフット」との関連性を上げる人もいる。
また、猿に似た怪異が食物の見返りに山中の人間を助けるという点は九州地方の「山童」とも共通する。


追記・修正は『北越雪譜』を全部読んでからオナシャス!

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