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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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ラフのラフ種

 夜、温泉で治療をし、火照ったままポータルで帰還した俺は呪いの所為で作業が出来ず、且つ訓練をする程でもない程度に暇なのでラトの新築した研究所に顔を出した。


「ラフー」

「タリー」

「リーアー」


 ……おかしくなった俺に改造された魔物共が出迎えてくれる。

 一応ラフ種の亜種扱いで、肌触りは悪くない。むしろ良い。


 元キャタピランドの魔物は、ラフ種に改造された事を大層喜び、Lv上げの戦闘組で頑張っている。

 見た目は大型ラフ種で、尻尾が僅かに名残がある程度だ。

 どう名残があるかと言うと、尻尾に芋虫の足があって常時地面にぺたりと付けている。

 尻尾と言うか……昆虫の腹みたいな感じの、あれだ。


 カチカチと石板で何かをうちこんでいるラトに挨拶をする。

 ん? サディナも居る。


「調子はどうだ?」

「ラフー」

「ナオフミちゃん。今日は良い夜ね。お姉さんと飲み比べしない?」

「しない」


 補佐するようにミー君だったかが俺を出迎えるが、俺は無視した。

 先入観なんだろうが、コイツはなんか気に食わないんだよな。


「ああ、侯爵……よく平然と私の所へ来れるわねー……その根性は侯爵らしいけど」


 ラトが嫌味を言っている。

 まあ気持ちはわかるが、いつまでも罪悪感に浸ってなどいられない。

 鳳凰との戦いが目の前まで迫っているんだ。

 やるべき事は一つ一つやっておかないといけない。

 それに……メルロマルクとは直接的な関係こそ無いが、城下町が少しピリピリしていたしな。

 波でもそうだが、やはりこの時期は慎重になってしまう。


「こいつ等を改造したのは俺じゃない。俺を乗っ取った何かだ」

「わかってるわよ」

「サディナの治療中だったのか?」

「ううん。そっちは既にやってるとこ、と言うかミー君を相手に呑み比べしないで」

「ラフー」

「あはは、だってこの子お酒強いからお姉さん楽しいんだもん」


 ……よく見たらミー君って奴の造形が滅茶苦茶だ。

 ラフ種っぽいけど何か違うようだ。


「ミー君。そろそろ寝なさい」

「らふー」


 なんかイントネーションもおかしい……って溶けた!?

 ドロドロと形を崩し、這うようにミー君はズルズルと気色悪い音を立てて、部屋から出ていった。

 トラウマになりそうだ。


「で? 侯爵は何の用?」

「ああ、調子はどうかと思ってな」


 前々から心配はしていた。


「そうね……正直な所、おかしくなった侯爵の研究は、悔しいけど称賛に値するものね」

「……」

「気にしてるのはわかっているし、認めたくないけど、なんて言うか……これだけの事が出来る天才なんてまずいないわ」

「どう天才なんだ?」

「まずは副作用とかそう言うのが殆ど無いの。それでありながら確実な成果が目に見えて存在する。治療中だった子然り、魔物達然り」

「副作用ねー……」

「治療前の……ここで治療中だった子達いるでしょ? ああいう、犠牲者が確実に出る類の物ばかりなのよ」

「そう言う連中無しで作り上げたと」

「ええ」


 俺もあいつ等、治療を受けて俺を神と呼ぶ連中は見ている。

 それだけで良かったとは思うけど、その先の改造は余計だと思う。

 一応は本人達が望んだらしいが、超えちゃ行けない一線は超えるなよと。


「自分にもしもの事があったらってミー君の中に情報を詰めた魔石を埋め込んでいたみたいでね。私のやりたかった事の設計図もかなり入っていたわ」


 と、ラトが石板を操作して画面を映し出した訳だけど……正直、内容は全然理解できない。

 それほど、高位な物だ。

 俺がやったと言われても、信じられない。


「これをなぞれば私のやりたかった事の大半が叶うけど……って粗を探していたって訳」

「で? 結果は?」

「完敗よ。悔しくて涙が出るわね」

「じゃあ成長する武器とかも作りだせるのか?」

「そこは手を入れてなかったわ。どちらかと言うと新種の創造に力を入れていたみたいだから」

「ラフ種か」

「ええ、仮名だけどね。正式名称はどうする?」


 既にラフ種でイメージが固定されているんだが。

 何か付けるとしても、元がラフタリアだからな。

 そもそもラフタリアが元だからといって、ラフだのタリだのリーアだの、安直過ぎるよな。

 まあ、今更考えるのも面倒か。


「そのままラフ種で良いだろ?」

「タリ種、リーア種とか色々とあるのよ。それを纏めてラフ種ね。わかったわ。フィロリアルのアリア種みたいな感じで、ラフのラフ種と」


 う……なんか呼び名を考えよう。

 ラフタリアのラフ種とか決めたら怒られそうだ。

 さすがにそんな名前にはしないが。


「俺としては第七世代ラフ種と第一世代ラフ種の違いがわからないんだが」


 撫でても感触は同じだし、違いがよくわからない。

 出来る技能に違いがあるっぽいけど。


「デフォルメしたラフタリアみたいな奴は数が少ないが、アレはなんなんだ?」

「アレは第七……侯爵にわかりやすく言うと七日目に作られたラフの一匹と言うべきかしら?」


 日数か。

 じゃあタヌキとアライグマ、レッサーパンダの混合魔物はラフ種の基礎で、デフォルメラフタリアはその亜種と見て良いのだろう。


「ミー君だったか。アレはラフ種の第何世代なんだ?」

「一応はあの体は八日目に作った物なのかしら? よくわからないけど、日によって違うし、換装も出来るわ。構造は大きく違うようよ」

「換装って……まるでロボットだな」

「ロボット?」

「この世界で言うゴーレムの事、というのが一番近いか」

「へぇ……」

「で、どう違うんだ?」

「まず、あの体はスライムの概念を取りこんである。肉塊と呼べる要素があるわ」


 肉塊……。

 ちょっと引くぞ。その表現。


「衝撃も斬撃にも魔法にも強靭な防御力を持っている」

「隙がないな……」


 俺の勘が告げている。

 あいつの弱点は、おそらく――。


「ただ、弱点と呼べる要素として、水を被った状態で伝導率の高い魔法を受ける、動きが止まってしまうのと内部のコアにダメージが入るわ」

「他に大きな衝撃で肉塊を弾けばコアが露出するとかだろ?」

「正解、さすがは侯爵ね。問題は相当強い力で露出させないといけないけど。それを受けたら終わりね」

「アイツは裏切り癖があるんじゃないか?」

「あー……ミー君? どちらかと言うと強さに貪欲なのよ。弱い所為で奪われ続けちゃって……でも私は信じてくれているわ」

「はいはい。そう思っているのはお前だけなんじゃないか?」


 我が子はかわいいって奴だな。

 ラトは魔物に対して親みたいなポジションだし。


「違うわよ。おかしくなった侯爵の塔の半分は、あの子が暴走した振りで破壊したんだから」

「そうなのか!?」

「そうよ。塔の重要拠点の守りから外されたら、穴を開けて近道を作ったり、防御装置を破壊したり、塔を守ろうとした子の邪魔をしたりと、下手をすれば廃棄されるような事をしてたわ」

「よく、捨てられなかったな」

「そこは……勇者相手に善戦したりと活躍もしてたから……かしらね」


 役には立つが暴走が……って奴?

 性能を考えれば制御できれば優秀だから残したって事か。


「侯爵も暴走に関して相当、手を焼いていたみたいよ。何重にもセキュリティを掛けようとしていたみたいだし。まあ、ミー君はその辺りのログを弄ってたみたいだけどね」


 と、ラトは石板の画面に映す。


「ミー君。どうやらこの錬金装置を手に取るように操れる様に技能を詰め込まれたみたいなの」


 う……途端に難しい事を。

 えっと、俺の常識で簡単に言うと、インターネットの世界に物理的に入る事が出来るような物で、ログと言うノートに書かれた記述を消しゴムで簡単に消して書きなおせるような……感じ?


 俺がパソコンを動かし、やっとの事ネット内の的に当てる事が出来るのに、あっちは目の前の目標を指一つで壊せるとか……それに近いかも。

 まあ、ファンタジーの世界でパソコンが一台あっても出来る事なんてタカが知れているけどさ。インターネットで世界中につながっている訳じゃないし。


 つまり、ログを見て暴走を直そうとしていたけど、本人が暴れて邪魔してただけな訳ね。

 最終的に改造を終えた後、ラトの方について、おかしくなった俺を裏切ったと。

 やっている事は一応、サディナとおんなじか。


「一応、私が作ったラフ種のホムンクルスボディに換装する予定」

「なんでだ?」

「まだ未完成だったみたいなのよ。だから問題を抱えているみたい。とはいえ、殆ど完成って所だけど」

「そうか」

「話終わったかしらー?」

「まあな。ところで、そっちはどうなんだ?」


 俺はサディナの体に関して尋ねる。


「ああ、まあ……大分良くなってきているわよ。明日には毛は無くなるかしらね」


 ボロボロと見ればサディナの毛が少しずつ落ちて黒と白のあの色合いが見えている。

 トドっぽい牙も既に無い。

 何でも折ったその場で生えてくるとか楽しげに言ってたけど。


「ただ……」

「ただ?」

「……なんでもないわー」

「そうか?」


 気にしたら負けだな。

 軽いのがコイツの強みだし。


「ナオフミちゃんはどんなお姉さんが好み? やっぱモフモフしている方が良いのかしら? ラフ種ちゃんみたいに」

「いやー……」


 お前の茶色は目と心に痛い。


「サディナは自然体の方が良いな。その流線型はそれはそれで味がある気がするし」

「あらー……褒められちゃった。恥ずかしいわお姉さん」

「はいはい」


 とまあ、村でも年齢の高い女二人と話をしてから、俺は家に帰るのだった。

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