新型コロナウイルスの政府支援が盛り込まれた補正予算が成立したその日に、痛ましい事件が発生し、少なからぬ飲食店経営者たちが心をざわつかせている。
東京・練馬区のある「とんかつ店」で火災があったのは、4月30日の夜。火の気のない客席付近で倒れていたのはその店の50代の店主で、まもなく死亡が確認された。
各種報道によれば、新型コロナウイルスをめぐる緊急事態宣言によって営業縮小に追い込まれ、最近では悲観する言葉を周囲に漏らしていた。「油をかぶった可能性がある」とも一部では報じられており、現在、その原因について捜査が進められているという。
この報道に心揺さぶられた、とあるラーメン店の店主は、筆者にこう吐露した。
「身につまされる事件でした。その方は東京五輪の聖火ランナーにも選ばれていたそうでね。地域活動にも熱心な人だったというから、残念でなりません」
そう語る店主もまた、突如襲ったコロナショックによる急激な売り上げ減に頭を悩まされているという。
5月4日、緊急事態宣言の5月末までの延長を決めた安倍晋三首相は、こう強調して見せた。
「現在、休業などによって売り上げがゼロになるような、厳しい経営環境に置かれている皆さんの苦しみは痛いほどわかっています。事業と雇用をなんとしても守り抜くとの決意のもとで、政府の総力を上げスピード感を持って支援をお手元にお届けしてまいります」
しかしこの首相の発言は、現場の実態とはかけ離れていることが、取材を通して見えてきた。