教員採用試験を受けてきた
なんとか一学期を終えることができた。学級崩壊をおこしつづけたという学年だったので、4月当初はどうなることやらと心配していたが、いちおう席について授業をうけてくれるようにはなった。いやはや安堵である。
さて、夏休みは、世の中の教育学部の4年生や、講師で食いつないでいる人たちには、憂鬱な日々である。教員採用試験があるからだ。
教員採用試験はほとんどの場合、公務員採用試験なのだから、公明正大におこなわれなくてはならない。そのため現場の能力とは関係ない部分で試験をおこなわなくてはいけない面がある(自治体の細かな施策や教育法規をこたえるとか)。これは情実採用をなくすためにも必要である。が、やはり、日常業務とまったくちがう能力を要求されるので、素晴らしい臨時任用の先生が何年たっても正規採用にいたらないというケースもしばしばみうけられる。
今回は、採用試験がどんな方法でおこなわれているか、受験をとおしてにいだいた感想もまじえておつたえしたい(採用する側にしても試行錯誤の連続で、とつぜん試験方法がかわったりする)。
そもそもなんでお前は正規の教員なのに採用試験をうけているのかという疑問をもたれるだろう。こういう人間はめずらしくない。どうしても教員になりたい人間は、採用枠の少ない自分の地元と、採用の多い都市部を併願し、都市部しか受からないというケースがままある。そのため正規の職をえながら、高倍率の地元をうけつづけるという挙にでる。そしてだいたい都市部の教委は教職員へのしめつけがきびしかったり(ようはサビ残が多い)、保護者の要求水準が高いので、せっかく育てた人材が地方に流出するという悲しい状況になっているのである。
というわけで、採用試験の内容であるが、これが自治体によって相当にことなるのだ。一日目の一次試験は学科試験。二日以降が二次試験で面接や模擬授業(ひとり芝居)がはいる場合がおおい。
一次試験はだいたいどの自治体もおなじで、筆記(教育原理・教育法規・専門教科・一般教養・論文)で構成される。都市部の現在の低倍率で、この筆記試験でゴリゴリしぼってしまうと、採用試験の体をなさなくなってくるので、最近はさまざまな特例で一次試験を免除してくれる場合がおおい(講師経験・民間企業経験・特殊技能)。ちなみに一次試験日は地方ごとにあわせてくるので、同地域の他県は併願できないようになっている。そのため夏になると全国を縦断する講師もたまにいる。
めでたく一次試験を通ると、二次試験である。ここまできて、ようやく面接・実技といった、教職本来の能力がためされる。とはいうものの、公務員試験である。いくら面接で適正をみせつけても、ポリティカリ・コレクトネスでないことを発言すれば、まずアウトであるので、ある程度勉強も必要である。また、法規を一問一答できかれたり、自治体の施策を説明させられたりと、筆記試験できけばいいのではないかという質疑でおわってしまうこともある。
そして近年の必須課題は、模擬授業や場面指導である。授業の導入部分をすることになる。試験官しかいない場合や、受験者を生徒とみたてておこなう場合がおおいが、緊張と気恥ずかしさのあいまった状況でテンションをあげるのはなかなか至難の業である。また場面指導は、学校の日常で生徒の問題行動にでくわしたとき、どのように行動するかを面接官の前でひとり芝居しなくてはいけないのだが、これがまたむずかしい。生徒が問題行動をおこしているという設定でも、もちろんキレてはいけない。エア生徒にさとすようにはなしかけないとアウトである。また、「あなたが話しているときに生徒が全員同時に筆箱を床におとしはじめました、さてどうしますか?」というベテランの教師でもどうしていいかわからないような難問がだされたりする。
また実技は、小学校の場合、ピアノ・リコーダーや水泳・鉄棒などがあったりしたが、そこまで全能を要求してしまうと、ぎゃくに学級・学校をまとめるという水準をみたせなくなるせいか、減少傾向である。水泳はどこかの自治体でがんばりすぎた受験生が心臓発作でなくなったらしく、実施している自治体はへっている(個人的には入れ墨の有無をみているのではないかとおもっていたが)。
そして、ご苦労なことに、近年の情報開示の観点から、教育委員会は面接から論文まで点数をつけ、順位まで開示してくれるのである。かように採用試験は、試行錯誤のうえになりたっている。教育委員会のみなさん、ご足労さまです。採用する側・される側、ここまで労力をかけて、適正のない教員が採用されてしまう場合も多いと思ってしまうのは、私だけだろうか。
中沢 良平(小学校教師)
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