レンがオリバーの家から帰ってきました(^^)
双子ちゃんがベッドでいちゃつきます(^^)/
一方鏡音家では。
玄関のドアが開く音がして、リンは走ってそこまで行く。レンが帰ってきた。
「おかえり!大丈夫だった?変な事されてない?怪我とかさせられてない?」
弟が帰って来た途端、リンは過保護全開で問い質す。
首輪をかけられた事は変な事に入るのだろうか、とレンは考えた。しかし言うと姉がまたうるさそうなので黙っておく事にした。靴を脱いで玄関に上がる。
「別に何もないよ。……リン、オリバーの事何だと思ってるの?」
ちなみに、朝起きるとオリバーの手から鎖は放されていて、これって意味あったの?とレンは首を傾げる思いだった。
「翼のへし折られた厨二野郎でしょ。ねえそれよりお昼ご飯焼きそばにするね。レン好きでしょ?」
昨日の夜も麺類だったな、とレンは思い出したが、それも言わない事にした。
そして夜、リンは一緒に寝ようとレンを誘った。昨日、レンが出ていった時からリンはすでに決めていたのだ。明日は絶対に一人占めするぞと。そしてもちろんレンは断らなかった。
リンの部屋のベッドで二人は眠る。しかしリンが大人しくするはずがなかった。数分も経たないうちに、リンはレンに声をかける。
「レン、起きてる?」
「…………」
「寝た?」
リンは体を起こし、背を向けて寝ているレンの肩を押し引く。仰向けにされたレンの左目と目があった。
「起きてんじゃん」
「まあね」
リンは慈しむように見つめながら、手でレンの前髪を掻き上げるように撫でた。
「レンやっぱり前髪上げてる方がいいよ」
「またその話?」
「うん。でもやっぱり普段は下げたままでいい」
リンはレンの額にキスをした。それから右瞼にもして、調子に乗って頬にもした。
レンはただぼんやりと天井を見上げていた。何を考えているのか全く分からない。何も考えていないのかもしれない。その顔はまるで人形のように無機質で、リンは少しでもレンの表情を歪ましてやりたいと思った。なんでもいいから反応を返して欲しい。
賭け事をするような気持ちでリンはレンの唇にキスをした。この前は押し返され、激しく拒絶されたけど、もう怒らないとこの弟は言っていた。
約束通り、レンは怒ったりしなかった。その代わり何の反応も返してこない。ただ左の瞼で瞬きを繰り返すだけ。まるで本当に人形に徹しているように見えた。それはリンにとって好都合でもあり、少しわびしくもあった。一つの事柄に二つの異なる意見が混在する。こうゆうのって何て言うんだっけ?とリンは考える。そして思い出した。
「……アンビバレンツだ」
「え、なに?」
「いや別に。……ねえ、レンさ、こないだ言いかけてたじゃん。俺、リンにだったらって。あれ、何て言おうとしたの?私にだったら何?」
リンの急な質問にも、レンはやはり表情を変えない。淡々とした口調で答える。
「リンにだったら……」
「うん」
「殺されてもいいよ」
レンの過激な発言が、薄暗闇の中で浮かんで消えた。淡々とし過ぎていて本気とも冗談とも取れる。リンは少々戸惑いつつも、レンの下唇を指でなぞるように撫でた。
「口にキスされるのは嫌がったくせに?あんたって変わってるね」
「まあね」
「……でもそんな事はしてあげないよ。それより私からあんたにお願いがあるんだけど」
「なに?」
リンはレンの頬に手で優しく触れた。
「ねえレン、笑ってよ」
「…………」
「今日一日、いや最近ずっと暗い顔してんじゃん。笑ってよ」
「……無理だよ」
「どうして?」
「笑ってって言われて笑えるもんじゃないだろ」
「笑ったら首絞めてあげるよ?殺されたいんでしょ?」
「結構です」
「笑わなくても首絞めるよ」
リンは指でレンの首の中心を、下に向かってゆっくりなぞった。
レンが唾液を呑み込み、喉仏がぴくりと動く。
リンは指でレンの喉仏をなぶるように撫でまわした。
レンが心なしか不安そうな顔をする。
「…………」
「本当に絞めるよ?いいの?」
「……どうぞご自由に」
レンは何かを諦めたように言い捨てた。投げやりな態度が腹立たしい。
リンはレンの首に両手をかけ、締め付けた。両方の親指にくっと力を入れる。もちろん本気で殺すつもりはないので全力は出さない。だけど苦しい事には違いないだろうと思った。
そしてやっとレンの表情を歪ませる事が出来た。左目もきつく閉じ、眉間にしわが寄っている。
リンはお腹の内部がぞくぞくするのを感じていた。
本気で苦しい時、この子はこんな顔するんだ。
私のこの両手のせいでこの子は今、息が出来ないんだ。
可哀そうな子。
手を離してやるとレンは口を開けて大きく呼吸を繰り返した。リンはその口を手で押さえつけたくなったが、さすがにやめておいた。代わりに上下している胸に手を当てる。
リンはレンの放心してうつろいでいる顔を目で、苦しげな呼吸音を耳で、酸素を求めて動いている胸を手で、じっくりと堪能した。
レンが吸ったり吐いたりしている呼吸音は決して快楽的なものではなく、ただただ苦しいから必死になって酸素を求めている音だった。
それがいい、とリンは思う。
まだ荒い呼吸を繰り返しているレンにリンは問いかける。
「ねえレン、私にこんな事されて嫌じゃないの?」
「……嫌じゃ、ないよ」
「私の事嫌いにならないの?」
「……ならない」
「私の事好き?」
「……うん」
「どれくらい好き?」
「……すごく、好き」
「本当に?もっと言ってよ」
「……大好き」
レンに苦しげな声で大好きと言われ、リンは気分が満たされる。右瞼の傷に唇でそっと触れる。
レンの呼吸が落ち着くと、リンも少し冷静になった。そして冷静になった頭で、この乱暴な気持ちはいったい、と考える。
レンを守るのは自分の役目。この子の事が何よりも大事で、他の何を差しおいてでも、たとえどんな犠牲が出ようとも、この子を守りたいと思う。それなのに、時々こうやって痛めつけたくなるのは何故だろう。苦しんだ顔を見たいと思ってしまうのはどうしてなのだろう。大事に大事に扱ってあげて、めちゃくちゃに踏みつけたくなる。この感情を何と言えばいいのだろう。程度の低い単純な欲求だろうか。
その身勝手極まりない欲求をもっとこの子にぶつけ、全身に浴びせたい。一方通行な想いが矢になって、この子の心臓を貫けばいい。
そしてその血で溢れた心臓を、私に差し出して欲しい。一生愛でてあげるから。
リンは再びレンの右瞼に唇で触れた。ながくとまってから離す。
「ねえレン、私の名前を呼んで。もっとしてって言って」
「……リン、もっとして」
再び右瞼にキスをした。唇や首筋にもした。飽きるまで繰り返した。
それからリンはレンの方に向いて寝転び、仰向けになっていたレンに、体をこちらに向けて少し下にさがるように言った。レンは素直に従う。そしてリンはレンの頭を自分の胸に抱き寄せて寝た。リンは優しく抱きしめているつもりでいたが、顔を押さえつけられていたレンは息がしづらく、少し苦しい思いをしていた。
リンのケータイに家庭科部の二年生の先輩からメールが届いたのはそれから二日後の事だった。お昼前、居間でレンと共に宿題をしていた時の事。受信ボックスに先輩の名前が表示されているのを見て、夏休みにいったい何だろう、と若干身構えてメールを開く。
『シラジョの友達が鏡音さんのケータイ番号教えて欲しいって言ってるんだけど教えていい?別に悪い子じゃないよ(*^_^*)』
勝手に教えるのではなく、きちんと許可を取ってくれるあたりこの先輩いい人だな、と思った。そんな先輩を信用し、『分かりました、いいですよ(^^)』と返信する。
先輩の友達だからきっと二年生なのだろう、とリンは考える。シラジョの二年生で思い浮かぶのは、やはりミクだった。
その子はミクちゃんと友達なのだろうか。ミクちゃん、今日のお祭りにどんな格好してくるんだろう。相変わらずいつもかわいい服着てるもんな。残念ながら浴衣は持ってないって言ってたけど。
などとシャーペンを指でくるくる回しながら考えていると、ケータイが鳴った。知らない番号からの電話だ。さっき先輩がメールでいっていたシラジョの友達からだろう、とリンは予想する。ほんの少し警戒しつつ、リンは通話ボタンを押した。
「はい、もしもし。……はい、そうです、はじめまして。……え、今日ですか?」
久遠イアと名乗る電話の相手にいきなり今日会えないかと言われ、リンは戸惑った。いくら成績優秀で品行方正なシラジョに通うお嬢さんでも、正直、初対面の相手にいきなり電話をかけてきて会いたいだなんて、怪しすぎる。気が進まない。
「え、いや別にそういうわけでは……え?………分かりました、すぐ行きます。場所は?……分かりました。今から家を出るので少し時間かかりますけど………はい、じゃあ失礼します」
リンは電話を切り、解きかけていた問題集を閉じ、シャーペンや消しゴムを筆箱に片づけ始める。
「どっか行くの?」
立ち上がったリンを見上げ、レンが聞いてくる。
「うん。ちょっと出かけてくる」
「ふーん」
レンは気のない返事をし、再び問題集に視線を落とした。
部屋着から洋服に着替え、リンは家から出ていった。通学にいつも利用しているバス停まで歩いて目指す。
つづく。