フィリピンの電力供給、中国が首根っこを掴んでいた

JBpress12月19日(木)6時0分

画像:(写真はイメージ)

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画像:中国の国有電力会社、国家電網公司の本社

中国の国有電力会社、国家電網公司の本社

画像:中国当局は九段線(赤点線)内の海域には中国の主権が及ぶとしている

中国当局は九段線(赤点線)内の海域には中国の主権が及ぶとしている

画像:アメリカ軍がフィリピンの基地を使えるようになった場合

アメリカ軍がフィリピンの基地を使えるようになった場合

(北村 淳:軍事社会学者)

 中国共産党は指令を発してフィリピン国内の電力供給を全面的に停止させることができる──フィリピン国会に対する調査報告書でそんな状況が指摘されていたことが、アメリカの報道機関にリークされた。


停止される可能性があるフィリピンの電力供給

 中国がフィリピン国内における電力供給をストップしてしまうとはどういうことなのか?

 フィリピンの電力システムのハードウェア自体はフィリピン政府が保有しているが、その電力システムの運用は民間企業の「National Grid Corporation of the Philippines」(以下、NGCP)が請け負っている。NGCPに対する最大の出資者は中国の電力配送会社、国家電網公司(http://www.sgcc.com.cn)であり、出資比率は40%に達している。

 国家電網公司は中国の国有企業で、世界最大の電力会社である。海外企業への投資も盛んに行っており、NGCPの他にも、オーストラリアのクイーンズランド州とニューサウスウェールズ州のガス電力供給会社JEMENAの株式の60%、オーストラリア南部の送電会社ElectraNetの株式の41%、オーストラリアのヴィクトリア州の電力エネルギー会社AusNet Servicesの株式の19.9%、ポルトガルの電力会社RENの株式の25%を保有している。また、2017年にはブラジルの発電送電会社CPEL Energiaに34億米ドル相当の資金をつぎ込んで経営をコントロールするに至っている。

 このほどその概要がリークされた調査報告書によると、NGCPの株式40%を保有している国家電網公司はNGCPに技術者を送り込んでおり、送電システムの主要箇所には中国人技術者しかアクセスできないようになっているという。したがって、理論的には、中国共産党政府は国有企業である国家電網公司を通してフィリピンの電力供給システムを停止させることが可能、ということになる。


中国が避けたい米軍のフィリピン駐留シナリオ

 中国は「南シナ海の8割以上の海域が中国の主権的海域」という主張を名実ともに確実なものとしてしまうために、西沙諸島や南沙諸島に軍事拠点を設置し強化し続けている。

 中国とそれらの領域を巡って対立している南シナ海沿岸諸国は、海洋軍事力が中国とは比較にならないほど差が開いてしまっているため、とても軍事的に対抗しうる状態にはない。そこで、アメリカはミサイル駆逐艦や爆撃機などを南シナ海に派遣して、中国の「国際海洋法秩序を無視した過度な主権の主張」を牽制する「FONOP」(公海での自由航行原則維持のための作戦)を断続的に実施している。

 しかしながら、アメリカのFONOPによって中国を引き下がらせることなど全く期待できない(このことはアメリカも承知しているはずだ)。むしろ、中国に、「第三国による軍事的脅迫から中国の主権を防衛する」ために西沙諸島や南沙諸島の防衛態勢を強化する名目を与える結果になってしまっている。このような状況は、しばしば本コラムでも指摘しているとおりである。

 ただし中国軍にとって、南シナ海での軍事拠点の強化を着実に推し進めているとはいっても気にかかるシナリオが存在する。それは、米比相互防衛条約が現在も存続しているため、フィリピン政府がアメリカ軍にフィリピン国内への駐留を認め、1992年以前のようにアメリカ海軍、海兵隊、それに空軍などがフィリピンに拠点を確保してしまう、というシナリオだ。

 たとえば、アメリカ軍がかつてのようにスービック海軍基地とその周辺に海軍艦隊と航空部隊、それに海兵隊を、クラーク空軍基地には空軍部隊をそれぞれ常駐させ、それらに加えて中国軍の南沙人工島基地群に対抗するため南沙諸島に近接するアントニオ・バウティスタ空軍基地にも航空部隊を展開させるとしよう。この場合、アメリカ軍は、中国の対艦ミサイル攻撃の餌食になりかねない空母打撃群を南シナ海に送り込まずとも、南シナ海全域をカバーできる航空戦力を十二分に展開させることができるようになる。そして、航空戦力を補充するために、空母打撃群を安全な海域であるフィリピン海に派遣することが可能となる。


フィリピン政府を暗黙裏に威圧する中国

 中国軍、そして中国政府としては、フィリピン政府がアメリカ政府との間の基地協定を復活させてアメリカ軍が南シナ海に駐留するような事態を是が非でも阻止しなければならない。

 とはいっても、フィリピン政府がそのような動きに出た際に、中国軍が強力な艦隊や爆撃機編隊などを展開させて軍事的に露骨な威嚇を加えると、フィリピン国民や国際社会の強い反発を被ってしまう。そこで、軍事力の行使よりも目立たない威嚇手段となりうるのが、フィリピンの電力供給のコントロールである。フィリピン政府に対して、万一の場合にはフィリピン全域の電力供給に異常が生ずるかもしれない、という非軍事的脅迫を国際社会の目には直接的に触れないように突きつけておけば、フィリピン政府がアメリカ軍の常駐を認めるような動きに出ることは阻止できる。

 実際に、与野党問わず対中警戒派のフィリピン国会議員は、「たとえ“論理的に”だとしても、中国がフィリピンの全電力供給をコントロールできるということは、すでにフィリピンは中国政府の支配に服さざるを得ない状況に陥っていることを意味している」として、極めて深刻な安全保障上の問題であると危惧している。


戦わずして勝つ中国

 中国は南シナ海を軍事的にコントロールするために、南沙人工島基地群や西沙諸島の軍備強化といった露骨な軍事的手段と並行して、上記のように一見非軍事的なビジネス活動の衣をかぶった軍事的工作も実施している。

 そして、フィリピンの頼みの綱である同盟国アメリカが本格的にフィリピンを軍事支援しなければならないような事態に立ち至ったときには、既に中国は戦闘を交えずして勝利を手にしているのである。

筆者:北村 淳

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