シリア内戦が強いた、現代の方舟からの「種子引き出し」

ノルウェーの「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」で、初めての「種子引き出し」が請求された。シリア内戦により、同地域の種子バンクでの種子栽培が行えなくなったためだ。

世界中の種子サンプルを貯蔵するスヴァールバルの世界種子貯蔵庫は、「現代の方舟」とも呼ばれる。Dalshe / Shutterstock.com

シリアは、世界的な種子バンクからの初めての引き出しを余儀なくされた。内戦の予期せぬ副産物となった今回の「種子引き出し」では、シリアが最初に貯蔵庫に預けた130箱分の種子が中東に戻されることになる。

内戦勃発前には、シリアの都市アレッポにも種子バンクがあり、種子を栽培して地域全体へ配布する拠点となっていた。この施設ではもう種子の栽培は行われていないが、保管は継続しているため、国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)は、世界種子貯蔵庫に預けられていた325箱のうちの130箱の返却を求めた。325箱には合計で116,000のサンプルが含まれている。

ICARDAは2012年、内戦により、本部をアレッポからレバノンのベイルートへ移転した。この内戦で1,100万人を超える人々が国外脱出を余儀なくされ、およそ25万人が死亡している。

世界種子貯蔵庫は、北極から約1,300kmの場所に位置するノルウェーのスヴァールバル諸島に、2008年に建設された(日本語版記事)。ここには、絶滅を危惧される世界中の4,000種の植物の865,000を超える種子サンプルと、種子の遺伝子データが保存されている。[『WIRED』日本版VOL.17では、この「現代の方舟」への取材レポートが掲載されている。]

スヴァールバルの施設は地下にあり、台風や洪水、大規模な地震にも耐えられるように設計されている。そこでは、貯蔵庫の種子を100年間にわたって「生きたまま」保存することができる。

種子バンクは世界各地にあるが、スヴァールバル世界種子貯蔵庫の種子を請求できるのは、自然災害や人的災害が発生した場合の最後の手段としてのみだ。

ICARDAによって預けられていたサンプルのひとつに、レンリソウ属の一種がある。エチオピアや、ソマリア、インド、バングラデシュで食用種として栽培される種で、厳しい干ばつでも生存可能だ。信じられないほど丈夫で、エチオピアでは最も干ばつに強い作物だという。

「わたしがエチオピアのある農家に滞在していた2年前、干ばつによって、地面には非常に深い亀裂が入っていました。腕を入れれば肘に達するほどの亀裂です。そのときでさえ、この植物は花を咲かせていました。害虫に強く、洪水にも耐え、すべての食用豆類の中で最もたんぱく質含有量が多い植物です」と、ケーリー・ファウラーは『WIRED UK』誌2010年11月号で語っている。同氏は当時、スヴァールバル世界種子貯蔵庫を運営するグローバル作物多様性トラストの事務局長を務めていた人物だ。

「ルワンダやブルンジ、ソロモン諸島、イラク、アフガニスタンの戦争でも、種子のコレクションが破壊されました。ロシア最大の野外コレクションである、サンクトペテルブルクのパヴロス(Pavlos)ステーションは、不動産開発業者の脅威にさらされています」と、ファウラー氏は語っている。

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「Ingressによって都市はゲームボード化する」ナイアンティック社 須賀健人:WIRED CITY登壇者からのメッセージ

現実すべてが遊び場になるゲーム「Ingress」。そのプロモーションを担当してきた須賀健人がWIRED CITYに登壇する。さまざまな都市でゲームと地域を接続してきた須賀氏はどのような都市論を語ってくれるのだろう。今回は須賀氏のこれまでの地方都市との取り組みについて、話しを聞いた。[WIRED CITY 2015は終了いたしました]

PHOTOGRAPH COURTESY OF NIANTIC
TEXT BY WIRED.jp_Y

須賀健人|KENTO SUGA
ナイアンティック社 アジア統括マーケティングマネージャー。慶応義塾大学を卒業後、Googleでプロダクトマーケティングマネージャーを経て、4人目の日本人としてナイアンティック社に参画する。
Ingress

拡張現実技術を駆使したスマートフォン向けのオンラインゲーム。位置情報を利用して、2つの勢力が陣取りゲームを繰り広げる。プレイヤーはどちらかの勢力のエージェントとなり、「ポータル」と呼ばれるスポットを現実世界で捜索する。実在の史跡や名所がポータルとなることが多く、岩手県や横須賀市などの自治体は観光振興に活用している。2014年には文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で大賞を受賞した。グーグルの社内スタートアップであるナイアンティックラボが開発を手がけていたが、2015年8月に同社はGoogleから独立した。

──須賀さんのナイアンティック社でのお仕事を教えてください。

IngressのマーケティングおよびPRを担当しています。それに伴ったイヴェントの企画・運営も行っており、去年東京で行われた「Darsana Tokyo」や次回行われる沖縄のイヴェントなどに携わってきました。

──地方都市とのコラボレーションが多い印象ですが、具体的にどのような自治体とお仕事されてきたのでしょう?

さまざまな場所とコラボレーションさせて頂きましたが、とくに仙台や宮城など東北の方とお仕事することが多かったです。街の名所にポータルを設置して、それらを回ると特別なメダルがもらえるスタンプラリーのようなイヴェントを行いました。最近では、Ingressと何かしたいという自治体からのご相談に応えたりもしています。

──市町村の役所で働かれている方でIngressのことを知らない人もいると思います。ゲームのことを理解してもらうのにはどうしていますか?

ほとんどの方が知らないこともあるので、はじめは概念を理解してもらうのが大変です。ただ、どの自治体にも1人はIngressのプレイヤーがいるんですよ(笑) なのでその人をハブにして、徐々に全体にIngressというゲームの持っている力を解っていただくことが多いです。

──Ingressというゲームは、ユーザーとして取り組んでいると、いつもの場所が新しい世界に見えてとても楽しいです。一方、イヴェントを企画したりする市町村の側からすると、どのような力を持っているのでしょうか。

Ingressには「人を運ぶ力」と「場所や人を結びつける力」があります。イヴェントを開催すれば、他の地域から人を呼ぶことができます。たとえば、女川で開催したイヴェントでは、800人の人がIngressによって集まりました。女川という町は震災で大きな被害を受けて、復興に向かって歩みだしている場所です。それを考えると、この数字は凄いことだと思っています。

地元のプレイヤーが、特産品のサンマを振る舞って頂いたりして、自主的にイヴェントを盛り上げてくれました。それによって、プレイヤー同士が繋がっていくんですね。同じゲームをやっている人どうしだから、スグに仲よくなることができるんです。

さらに言うと、Google+などのSNSでお互いが継続的に繋がることが可能になる。すると、2度、3度とその地域を訪れることになるんです。

仙台で行われたイヴェント「Persepolis in Tohoku」の模様。たくさんの人が訪れた。

──なるほど。地元のプレイヤーと繋がることで、その街とも繋がるということですね。しかも、最近のIngressのイヴェントは「祭り」といっても過言ではないほど、盛り上がっていると思います。

おかげさまで、とてもたくさんの人に楽しんで頂いています。毎回想像を超えた熱量をイヴェントから感じます。これは個人的な意見になるのですが、Ingressは人の根源的な他人と繋がりたいという欲求を満たしていると思っています。

いままでゲームでは、現実世界の他人繋がることはどちらかというと少なかった。そこにIngressのような、リアルで繋がれるゲームが現れたことは、多くのゲーム好きにとって大きかったと思っています。同じお祭りでも、音楽フェスとかのイヴェントとはちょっと違う層の方に楽しんで頂いているのかも知れませんね。

──リアルな街を舞台に生身の身体で遊ぶゲームだから、さまざまな出会いも発生する。確かにこれは新しいですね。

さらにいえば、街と地元の人が有機的に結びついていくところも、新しいと思っています。Ingressのイヴェントは、その土地を愛しているプレイヤーの方たち、ひとりひとりが作り上げていくんですね。結果として、いつでも市民主導で何か街おこしができて人が繋がりあえる磁場を整える役割をIngressが担ったのかなと思っています。

役所主導でつくるよりも、さまざまな人が参加しやすいイヴェントを、低予算でつくることができる。これはIngressというゲームが、街そのものをゲームボードにできたから可能になったことだと思っています。

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