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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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竜信仰

 数日後。

 波に備えた遠征軍に関して女王と相談する為、城の方へ飛んだ。

 武器屋の親父に頼んでいた馬車が完成したかも知りたかったし、調度良いだろうとフィーロも一緒だ。

 ラフタリアとフィーロ、そしてこれ見よがしにフォウルをアトラの目の前でポータルに巻き込んだ。


「到着」


 一瞬で城の内部に到着すると同時に、フォウルが俺に敵意を向ける。


「お前――」

「なんだ? 一応は罰として見せつけてやったんだが? 反省を促すには良いだろ」

「俺の立場を考えてくれ!」


 あ、フォウルが泣きついて来てる。

 こりゃあ相当堪えてきているなぁ。

 目に入れても痛くない妹に恨まれると言うのはやはりきついのか。


「ごめんなさい。フォウル君。無理をさせてしまっていますね」

「姉貴が気に掛ける必要はないです。全てはコイツが悪いんだ!」

「ナオフミ様は……まあ、こう言う方ですから、これもアトラちゃんの自立を促すためですよ」

「わかってます。わかってますけど!」

「ごしゅじんさま! 馬車!」


 もう単独で飛べるんだからいらないんじゃ?

 ああ、それでも地を走るのは好む……って所か?

 というか、罰が馬車の没収でも良かったが、まあ良いか。

 足として優秀なのは事実だし、それを使わないのはフィーロの存在意義に関わる。


「ああ、はいはい。城での話が終わってからな。その間、城の庭で休んでいてくれ」

「わかりました」

「うん」

「じゃあ姉貴、稽古しましょうか」

「そうですね。波が近くなるとやはり落ち着きませんし」

「そうなんですか? 姉貴はあの山みたいな亀と戦ったんですよね? 参考に教えてください」

「いいですよ。丁度フィーロもいますし、それを踏まえて訓練しましょう」


 と、ラフタリア達を城の庭に置いて、俺は女王に会うために謁見の間の方へ歩き出した。



 謁見の間に行くと、女王が公務をしていた。

 国民の悩みを聞くのも仕事だものなぁ。

 大臣が女王と話をしている。

 あれ? 大臣ってこんな奴だったっけ?

 この世界に召喚された頃、俺を舐めていた大臣とは別の奴だ。


「これはイワタニ様、経過はどうですか?」

「一応は話は通じているはずだが?」

「イワタニ様の盾が暴走して事件を起こしたと言う経緯は聞いております。その件で……数分後にはシルトヴェルトの使者が顔を見せると思います。お話を合わせて頂けると幸いかと」

「……わかった」


 この件に関して、俺は何にも言う事が出来ないなぁ。

 非は俺にしかないから。

 で、ガチャリと音を立てて、この前会ったシルトヴェルトの使者二人がやってきた。


 ん?

 シュサク種の顔が晴れやかだ。

 機嫌が良いのか、こっちに向かって微笑んでいる。


「これは盾の勇者様。今回の演習、しかと目に見させて頂きました」


 ゲンム種の爺さんが軽くも渋い感じで話しかけてくる。

 演習?

 そういえば俺の暴走はそういう名目になってたんだったか。


「あ、ああ……どうだった?」

「波に備えた盾の勇者様の策謀の数々、決意の程を確認出来てこちらも満足でございます」


 本心はどう思っている事やら……とは思うが、シュサク種の奴の様子から好意的に見てくれているので良いんだろう。


「近々西の方で復活する鳳凰に挑む予定だ。お前等はどうするんだ?」

「波に対する連合軍として出征する予定でございます。盾の勇者様のご活躍を一目見たいと、我が国の兵士はやる気に満ち溢れています」

「そうか……できれば遊び気分はやめてくれよ」


 この前の連合軍にはなんで来なかったのか? とかは聞かない方が良いんだろうな。

 まあ、三ヶ月半も時間があったんだから準備も出来るか。

 亜人の国の連中がどれだけ戦力になるのかを期待するほかないだろう。


「盾の勇者様の決意、しかと見せて頂きました。杞憂も少しは晴れます」

「杞憂?」


 俺の問いにゲンム種の方がシュサク種を睨む。

 失念していたと言うかのように、シュサク種は口を押さえた。


「何か?」

「大した問題ではございません」

「……そうか? 俺に被害があるようなら先に説明してもらえると助かるんだが?」

「そうですね……」


 正直、今は波の事を第一に考えていたい時期だ。

 だが、後から突然問題が起こったら、それこそ困る。

 ゲンム種の爺さんは髭を撫でつつ、女王とアイコンタクトらしき物をしてから口を再度開いた。


「我が国筆頭種族の一つである、アオタツ種が少々……勇者様の信仰に異を唱える活動を秘密裏に画策していると我が国の上層部は察知しております」

「それが俺の所へ来て迷惑を?」

「いえいえ、それはありません。ただ、フォーブレイに強く加担しようと考えているそうでございます」

「ふむ……」


 フォーブレイか。

 あの豚王が統治する国なんだよな……。

 かなり偏見が入っているが、色々と黒いイメージがある。

 しかし、勇者の国であるフォーブレイになんで勇者信仰に異を唱える連中が加担しようとしているんだ?


「元々アオタツ種はシルドフリーデンへと渡った者が多い故……最近はフォーブレイに長がいるそうで、こちらも懸念しているのです」

「長?」

「フォーブレイで活躍しております。あの国では竜を使役する者がいるので関係は良好なのですよ」


 ん? なんで……?

 ああ、アオタツ。青、龍と書いて青龍か。

 となると竜系だな。

 竜と言うと内のヘタレ竜が頭に浮かぶが、ラトが前に言っていたな。

 ドラゴニュートって亜人種。


「アオタツ種はカテゴリーで言えば竜人でございます。竜信仰も厚いのです。なんとも愚かな事で……」


 へー……よくわからないが、あっちにも色々な派閥があるんだろうな。

 俺の知っている宗教だって同じ宗派ではあるけれど、過激派から穏健派まで様々だ。

 経典の内容が同じ宗教であるはずなのに違うなんてよくある話だし、盾の宗教だって色々とあるんだろう。


「そいつらの行動に何か問題でもあるのか?」

「信仰の揺らぎでございますよ。盾の勇者が我が国に来ないのなら我が国を守る必要は無いと……強く発する声があるだけで」

「なるほど……」


 行かねばならないとは思うけど、そんな暇は無いし、陰謀渦巻く中に好き好んで行きたくもない。

 しかし、波という大きな問題が控えているから、可能な限り味方は欲しい。

 戦争なんかで仲間割れした所為で波に負けました、じゃ話にならないからな。


 だが、やはり勇者の国であるフォーブレイに竜信仰の連中が協力するのは不自然だ。

 三勇教やヴィッチの時も思ったが、嫌な予感がするな。

 今は時間の問題で鳳凰を優先するが、一度行く必要がありそうだ。


 何より、その竜を使役する者って奴に会いたい。

 竜の核石を所持しているかはわからないが、ガエリオンの様に核石からの情報を持っているかもしれない。

 まあ期待は少ない。

 重要な情報があれば公言しているはずだしな。


「ですが今回の演習を間近で見て、盾の勇者様の決意の程を確認出来、我等も満足でございます」


 ……善意的に取られるってこの世界に来て、最近はよくあるけど、慣れない物だ。

 特に、シャレにならない悪事を自覚なしでやっていたと聞かされた身からすると、自覚があってやるよりきつい。


「確かに迷惑をおかけしてしまう可能性がありますが、そのような真似を盾の勇者様にしようものなら、我が国が黙っておりません。特に身内の恥に関しては」

「そうあってくれると助かる。理由はどうあれ、今は波を倒す事が重要だ。面倒な事は全て片付いてから頼む」

「はい。メルロマルクの膿を掃除するため、敢えてこの国に留まる勇者様の偉業は我が国にしかと伝わっております。そして此度の演習で安心いたしました」


 シュサク種の若者が我が事の様に言い放つ。

 メルロマルクの膿……ね。

 なんだかんだで敵国への感覚は抜けないか。

 善意的に捉えているなら俺としては問題無いが。


「ラフー」

「今回の騒動で一匹保護させていただきました」


 シュサク種の若者が籠の中にラフ種を入れて俺に見せる。

 げっ!


「波に備えた神獣の創造……伝説の再来でございます。是非証拠として一匹譲って貰えないでしょうか?」


 いやー……出来れば俺の領地内から出したくないのだが……恥と言う意味で。

 と、女王に目を向けるのだが、首を軽く横に振られた。

 断ると交渉に不利か。

 それにしても伝説の再来と来たか。


「伝説の再来?」

「はい。彼の神鳥は勇者が創造したと言う伝説が存在するのでございます」

「真相は謎とされておりましたが、新種の魔物がこのように存在すると言う事は、証拠として十分でしょう」

「魔物の創造って簡単には出来ないのか?」


 ラトの研究とか見ていると案外出来そうなんだが。

 まあラフ種と違って色々な種族を掛け合わせる感じだけどさ。

 ラフ種はラフタリアの遺伝子から作られているから、クローンに近いのか。

 もはや完全に別の生命体になっているけどな。


「これだけ完成度の高い魔物となると早々出来るものではありません。国の関係者に調べさせますが、神鳥の再来と呼ぶに相応しいと私達は思っております」

「はぁ……」


 あんまり調べないでほしいが……まあ、これで和平が継続できるのなら頷くしかないんだよな。

 あれだよな。希少な動物を送って関係良好を計るみたいな。

 その動物の維持費で問題になったりは……無いな。

 ラフ種って思ったより燃費が良いから少食だし、雑食だからなんでも食べる。

 気性も温厚で飼うという意味では困らない魔物だ。


「じゃあ任せた」

「ラフ!」


 ラジャーとラフ種が俺に向かって敬礼した。

 頭良いんだよなぁ。

 やっぱ名残惜しいな。


「そう言えば、先ほどこの城の庭でハクコを見ました」


 う……物騒な方向に話を持ってくるなぁ。


「世界の危機にメルロマルクの女王が提示した亜人差別廃止運動……確かに見させていただきました。我が国の人間差別廃止運動の原動力とさせていただきます」

「ありがとうございます」


 え? そう言う方向性で納得してくれるの?

 ありがたくはあるけど。


「ところで勇者様」

「なんだ?」

「我が国の者と婚姻を結んで頂ける予定はおありでしょうか?」


 ……俺はガックリと肩を落とす。

 その後は使者が持ってきた見合いの人相を見させられた。

 一応は美少女みたいだけど、俺はそう言う事は考えていないと伝え、丁重に帰って貰う。

 そんなにも盾の勇者と婚姻を結ばせたいか。


「イワタニ様、メルティとの関係はどうですか?」


 ……こっちにもいるしなぁ。

 まったく。


 その後女王達と打ち合わせの結果、鳳凰が眠る国との交渉は既に済んでおり、期限の五日前には現地に到着して影や国の連中が調べた記述を俺達が確認し、五日間で連合軍に戦い方を叩きこむと言う事で決まった。

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