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【社説】

週のはじめに考える 「中国模式」の危うさ

 中国には新型コロナウイルスの発生源が自国、という点には異論があるようですが、感染が湖北省武漢市から広まったことは誰も否定できません。

 当然、最も早く深刻な感染拡大に苦しんだわけですが、世界に先駆けて「感染拡大を抑止した」と宣言しました。

 強権的な「武漢封鎖」の手法に批判の声はありますが、迅速な感染封じ込めについて、中国は共産党一党支配の「制度的優位性を示した」と自画自賛しています。

◆一党独裁下で経済成長

 近年の中国は、政治的には共産党一党独裁のまま開放政策で市場経済を発展させる「中国模式(モデル)」を掲げ、米国をしのぐ世界一の大国になろうとの野心を隠そうともしていません。

 確かに、改革開放政策により驚異的な経済発展を遂げ世界第二の経済大国となった中国が近年、中国モデルの一定の成功により、政治的にも存在感を強めていることは否定できないでしょう。

 しかし、一連のコロナ対応で国際社会が強く感じたのは、民主主義とは対極にある「中国モデル」の国が世界の主導権を握った場合の危うさではないでしょうか。

 歴史を振り返れば、新中国の最高権威は毛沢東でした。偉大な「建国の父」でしたが、次第に独裁色を強め、数千万人の餓死者を出した大躍進政策や政敵打倒の権力闘争であった文化大革命の過ちも犯しました。

 中国は毛の評価について後年、「功七分、過三分」と、その過ちも認めました。一方、個人崇拝による災いへの教訓として、集団指導体制による「党の指導」の絶対化を強めたように映ります。

 特に、「太子党」と呼ばれる党高官子弟の習近平国家主席(党総書記)は「あらゆるものに対する党の指導を堅持する」(改革開放四十年式典)と述べ、一党支配による強国化路線を進めています。

◆衝撃与えた習氏の演説

 その習氏の二〇一七年党大会での演説が米中関係のみならず、国際社会に衝撃を与えました。

 宮本雄二・元中国大使は一九年、名古屋市内での講演で「習氏は『二〇五〇年までにアメリカを追い越す』ととられるような表現を使った。かつ、独立を維持しながら急速な経済発展を願う他国に対し、『中国発展モデル』は新たな選択肢を与えたと高らかにうたった」と指摘しました。

 トランプ政権が「米国第一主義」を鮮明にした米国は今や内向き志向です。習氏が率いる中国はその機に乗じて覇権を握り、積極的に世界に関与していこうという戦略を描いているようです。

 しかし、国内的には強烈な求心力となってきた「党指導の絶対性」が、一連のコロナ対応では裏目に出ているように見えます。

 湖北省と武漢市のトップが更迭されましたが、トカゲの尻尾切りにしかすぎません。武漢封鎖解除にあたり、新華社のコラムは「習主席の指導の下、共産党員が感染拡大防止に向け勇敢に戦った」と報じ、本来は最も重い責任を負うべき共産党の功績賛美一色です。

 確かに、初動対応について「至らない点があった」と共産党の内部会議では認めました。一方、世界に向けて感染拡大や情報隠蔽(いんぺい)についての真摯(しんし)な謝罪はありません。他国へのマスクや医薬品支援を「マスク外交」とばかりに吹聴し、「感染拡大の防止で、世界は中国に感謝すべきだ」とまで言い放ちました。

 こうした態度では、いまだ深刻な感染被害に苦しむ国々の多くの

国民が、中国の姿勢を傲慢(ごうまん)だと感じても何の不思議もありません。

 一党支配に支えられる「中国モデル」には、国際社会からの批判に対し、強引に自国の正しさばかり主張する偏狭さが目立ちます。それでは到底、世界を引っ張るリーダーたりえません。

 国内にさえ、中国モデルの限界を鋭く指摘する声はあります。武漢大教授は「今回の危機は、人々の口がふさがれ、言論の自由が抑圧されることが、社会の不安定を招く真の理由だと示した」とネット上に意見表明しました。

◆世界けん引の度量は?

 言論統制が強まるばかりの中国で、感染情報隠蔽を真っ向から批判した勇気ある発言であり、こうした批判的言論を公にしている学者や文化人は他にも多くいます。

 コロナ感染拡大とその対応は、中国モデルは将来の国際社会の基準たり得ないという共通認識を、世界の人々の間に生みました。これまでは、経済発展とそれに伴う他国への支援がその負の側面を覆い隠していたといえるでしょう。

 国内外からの批判を謙虚に受け止め、自らの進化の糧とする寛容性と柔軟性こそ世界をけん引する国に求められる度量です。皮肉なことに、それを獲得したら、もはや、中国モデルとは言えないのかもしれません。

 

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