なぜ「やりがい搾取」が起きてしまうのでしょうか。また、「やりがい搾取」とは何なのでしょうか。
通常、賃金は労働力や労働時間に対する対価として与えられますが、代わりに「やりがい」という目に見えないものを与えて「労働力を使用する=搾取する」という労働形態が少なくない企業で見られるため、「やりがい搾取」という言葉が生まれました。
「やりがい搾取」の名付け親でもある、教育社会学者で東京大学教授の本田由紀氏は、搾取に結びつきやすい「やりがい」として、「趣味性」「奉仕性」「ゲーム性」「サークル性・カルト性」の四つを挙げています(『軋む社会――教育・仕事・若者の現在』河出書房新社、2011年)。
「趣味性」とは、簡単に言えば「好きだから行っている」状態です。「奉仕性」は言い換えれば「自己犠牲の精神」や、先ほど挙げた「私がいなければ迷惑がかかってしまう」といった例です。「ゲーム性」では、お互いを競争させたり、「あと〇〇でレベルアップ」などと周りとの差別化の圧をかけたりして、やりがいを持たせます。また「サークル性・カルト性」とは、労働者自身が積極的に行動し労働環境が異常であることに労働者自身が気づいていないケースをいいます。仕事や企業に対して、強い信念や信仰心を持っているような環境で起きやすいといわれます。
では、「やりがい搾取」にならないために注意すべきこととは何でしょうか。まずは、法律を守ることです。当たり前に聞こえるかもしれませんが、国で定められた労働時間を守らず、残業代も支払わずにサービス残業をさせている企業は少なくありません。
また、業務委託や個人事業主と契約を結ぶ場合であっても、残業代の規定や労働時間などの規定を契約書に明記することで、「やりがい搾取」を防ぐことができます。その上で、労働者と話し合い「報酬をきちんと見直す」ことが必要でしょう。労働者と経営者が話し合い、適切な金額で合意することが大切です。
最近ではエンゲージメントやモチベーションなど、社員の内面にアプローチすることがトレンドとなっています。しかし、それが「やりがい搾取」につながるようではいけません。
「やりがい搾取」を避けるためにも、今一度立ち止まって、「本当に自社は、やりがい以外でしっかり社員に報いているか」を考えるときがきているのではないでしょうか。自社が「やりがい搾取」とささやかれているなら、働き方や報酬、組織体制などを見直すきっかけとすべきかもしれません。
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