非正規で働く人の待遇改善を進める「同一労働同一賃金」の制度が四月から始まった。改善にはまず賃金や手当などのあり方を見直す必要がある。企業はその総点検に取り組んでほしい。
新型コロナウイルス感染拡大でまず雇用の維持が最優先課題だ。だが、その混乱で待遇改善への取り組みが遅れていいはずはない。
正社員の六割程度にとどまっているパートなど非正規労働者の賃金などの待遇を可能な限り引き上げる。政府の「同一労働同一賃金」制度は、それを実現しようというものだ。
時間外労働の上限規制、年次有給休暇の確実な取得と並び、安倍政権が進める「働き方改革」の柱のひとつである。四月からはまず大企業を対象に実施された。
待遇改善の基本的な考え方は、職務の内容が同じなら正社員、非正規の雇用形態にかかわらず待遇も同じにする。基本給、賞与、各種手当などの項目ごとに同じ待遇にしなければならない。
例えば、正社員と同じ役職に就く非正規の役職手当が低い場合など不合理な格差は禁止された。
ただし、どんな場合が不合理な待遇になるのか、厚生労働省の指針では、明確に例示できているケースは少なく分かりにくい。
一方で、待遇に違いがあっても認められる場合がある。指針では、正社員と非正規とで能力、経験、成果、会社への貢献度などが違えば、基本給や賞与など差を設けられる。だが、その違いを判断する基準はあいまいである。
背景には支給目的や対象者などは業種や企業によってさまざまとの事情がある。賃金の決め方を長年かけて形作ってきた経緯もそれぞれだろう。制度導入でどこまで待遇差が縮まるのか疑問は残る。
ただ、大きく変わる点がある。 働く側から、存在する待遇の差について説明を求められたら、企業は働く人が納得できる合理的な説明をしなければならない。
そのために企業は職務ごとの支給基準や過去の経緯の確認など待遇の「棚卸し」を迫られる。その上で説明のできない待遇差があれば改善の対象となる。企業は積極的に賃金制度の中身を精査してほしい。
感染拡大による業務への影響で待遇に疑問を感じたら企業へ説明を求めてもいいはずだ。労働組合の役割も大きい。
コロナ禍で雇用のあり方に関心が高まっている。待遇見直しの機会にもすべきだ。
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